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  • 執筆者の写真森智勝

中小塾のためのマーケティング講座105 モチベーションを上げる![1]

この記事は塾生獲得実践会の森智勝氏のご厚意により、全国学習塾援護会のHPから転載したものです。


-マネージャーに留まるな、リーダーになれ!-

職場から「それは私の仕事ではない」を排除する

塾業界に新たな仲間(社員)が加わって、活躍を始めています。希望を胸に業界に飛び込んできた若者が、その理想と情熱を失うことなく一生の仕事として従事されることを心から希望します。


近年、マスコミ等では「就職できない大学4年生」の特集が目立ちます。特に、リーマン・ショック後の就職難は深刻です。以前までは、塾業界に就職を希望する若者はごく一部に限られ、だからこそ教育に情熱を持った人材が集まってきました。現在のように、「とにかくどこかに就職を決めたい」という心理が学生の間に蔓延すると、確かに業界にとっては優秀な学生を採用するチャンスは大きくなるのですが、一方で「学歴は高いが、特に教育に情熱を持っているわけではない者」が増えてきます。熾烈な就職戦線をくぐり抜け、入社後に燃え尽き症候群に陥りやすいという傾向が強くなります。「就職すること」が目的化されてしまうのです。すると、(これはどの業界でも同じですが)塾業界の厳しい労働環境に馴染めず、結局、早期に退職してしまう若者を増やす結果を招きます。


以前もお話したことがありますが、今の若者は生まれた時から「自己責任」をすり込まれて育っています。「なぜ、勉強しなければならないの?」という素朴な疑問に、両親をはじめ周りの大人たちは口を揃えて「あなたのためよ」と答えます。あなたのため、あなたの将来のため、あなたが将来、幸せに生きるため…勉強の目的すら自己に帰結して語られます。すると子どもは、「自分が幸せになりたいと思わなければ勉強しなくてもいいんだ」と考えます。彼らは大人になると「自分が了解しているのだから仕事をしなくてもいい。自己責任なのだから…」と考えます。それが、ニートやフリーターが爆発的に増えた根源です。


企業内にも自己責任は導入されました。成果報酬という名の下に。すると、自分の成果につながらない仕事・業務には誰もが積極的に取り組もうとしなくなってしまいます。誰もが、それぞれの枠の中に閉じこもり、いわゆる「タコツボ化現象」を多くの企業が招いています。結果、隙間にこぼれていく業務が多くなり、業績を上げる目的で導入した成果報酬制度によって業績を著しく下げるという皮肉な結果を招いています。


例えば、次のようなケースです。ひとり残業をして、社内に残っていた社員が帰ろうとした時、取引先から電話が掛かってきます。納入した機械が故障してラインが止まってしまったというクレームです。以前ならば、自分が担当でなくても何はともあれ相手先に駆けつけ、謝罪し、見よう見真似で機械を調整しようとしたものです。ところが現在は、「では、担当の者に連絡します」と言ってメモ用紙にクレーム内容を書き、担当者のデスクに貼り付けて帰ってしまいます。(実際は社内メールか?)なぜなら「それは私の仕事ではないから」です。どちらが取引先の納得を得られるかは言うまでもありません。


塾の現場でも、廊下に放置されている段ボールを誰も片付けようとしません。「それは私の仕事ではない」と思っているからです。こうした組織では全体の業績が上がらないのも当然です。


もともと、究極のアナログ産業である塾業界は、「人が全て」と言っても過言ではありません。いくらデジタル機器の性能が向上しようとも、その基本は変わりません。チーム(組織)として一人の生徒の学力向上に取り組み、将来に責任を持つ意識が絶対に必要です。もし、塾人が皆タコツボ化してしまったとしたら、塾の業績が上がらないばかりか通っている生徒が不幸です。



リーダーとしての「経営者の仕事」とは


今春、あなたの塾にやってきた新入社員に対して真っ先にやらなければならないことは、塾(あなた)の理念を伝え、塾の仕事に対する意義を「腑に落ちるまで」徹底して理解させることです。鉄は熱いうちに叩かないと、変な形のまま固まってしまいます。「自分のためだけではなく、誰かのために仕事をする」という思想を共有することです。なぜなら人は、自分のためよりも「誰かのため」に行動する方がモチベーションを高くする生き物だからです。経営者・上司の究極の役割は、部下のモチベーション(労働意欲)を高めることです。

業務を効率よく処理できるように差配するのがマネージャーの仕事、部下が自ら仕事に取り組むようにすることがリーダーの仕事と言われます。中小塾の経営者は、両方の役割をこなさなければなりません。

ところが、多くの塾でリーダーになりきれていない経営者がいます。部下のモチベーションを下げる言動を無意識のうちに行っているのです。

「こんな企画しか思いつかないのか」「君の意見は聞いていない」「君の代わりはいくらでもいる」「せめて給料分は働いてくれよ」「嫌なら、いつ辞めてもらっても構わない」 こうした一つひとつの言葉が若者のモチベーションを下げ、全体の生産性を下げています。

部下のモチベーションを上げる方法の基本は「仕事を与えること」です。気をつけなければならないのは、仕事と作業を分けて考えることです。時給800円のパートのおばちゃんでも(つまり誰でも)できることが作業であり、「貴方にしかできないこと」が仕事です。人は、作業ばかりを与えられるとモチベーションを著しく落とします。「入試資料を人数分プリント・アウトして、ホッチキスで停めておいてくれ」が作業を与えることであり、「今年の入試結果を分析して、分かりやすい資料を作ってくれ」が仕事を与えることです。


司馬遼太郎の小説の中に、こんな場面があります。

秀吉がある武将に対して信長に味方するよう説得する時に、「信長殿は部下を愛していらっしゃいます」と伝えます。相手が「何が愛しているだ。信長ほど部下をこき使う大将はいないではないか」と応じると、秀吉は次のように反論します。 「これは異なことを。男が男を愛でるというのは寵愛することではなく、仕事を与えることではありませぬか」

確かに、新人に仕事を任せるのは心配です。しかし、作業ばかりを与えてモチベーションを下げてしまうのは絶対に避けるべきことです。せっかくの人材を、「人財」どころか「人罪」にしてしまうだけです。 ここまで読まれた「あなた」は、「うちは個人塾で、新入社員の話なんか関係ない」と思われたかもしれません。否!多くの個人塾経営者が、自分で自分のモチベーションを下げることを無意識のうちにしているのです。「仕事」を後回しにして「作業」に時間を費やし、自らのモチベーションを下げています。次回、自らのモチベーションを上げる方法についてお話します。

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