この記事は塾生獲得実践会の森智勝氏のご厚意により、全国学習塾援護会のHPから転載したものです。
-本気の情熱が人の心を動かす-
今は体育会系の組織が支持を得ている
NKKでも報道されたくらいですから、AKB選抜総選挙は国民的行事なのでしょう。私は出張先の新潟のホテルで生放送を見ていました。誰もがご存知のように、AKBは秋元康氏がプロデュースするアイドルグループです。その数、何と二百三十七名。東京秋葉原だけではなく、名古屋、大阪、博多にも拠点を持ち、ジャカルタにも派生グループが存在します。 ところで、AKBのビジネス・モデルは塾経営と似ています。塾業界とは対極にあるショー・ビジネスですが、「あなた」にも参考になることがあると感じましたので、お伝えします。 AKBは芸能界では珍しく、究極の体育会系グループです。恋愛禁止のルールに代表される厳しい掟は有名です。それをキャプテンである高橋みなみが統率しています。舞台裏を見せるドキュメント映像では、そこらあたりの野球部では太刀打ちできない程の「厳しさ」が全面に紹介されています。 一時期、癒し系が持て囃された時期がありますが、今は体育会系が人気です。週末アイドルの桃色クローバーZもそうですね。フリフリのスカートをはいて、にっこり笑うアイドルよりも、全身汗まみれで歌って踊るアイドルを人は支持しています。 塾も同じです。今は「居心地の良さ」を全面に出す塾よりも、(もちろん、居心地の良さは必要ですが)厳しさを強調している塾の方が好調です。特に、不況下では費用対効果が重視されますので、「居心地はいいが成績が上がらない塾」よりも、「厳しくても成績が上がる塾」が求められます。AKBの人気は、そうした世情も反映しています。 もちろん厳しい芸能界ですから、そこで生きていくためには過酷な訓練や厳しいルールが存在しているのは以前から変わらないことです。ただ、これまでは「華やかなステージの裏側は見せない」というのが常識でした。「夢を売るスター」が苦しい息を吐いている訓練風景を見せること、ましてやそれを映画にして売ることなど考えられなかったものです。ところがAKBは、そのバックヤードまで赤裸々に見せ、ファンの共感を得ています。もともとグループのコンセプトが「会いに行けるアイドル」であり、メンバーの選考基準も「クラスに1人は必ずいる、ちょっとかわいい普通の子」です。そうした普通の子が成長していく過程を見せることで、ファンの「応援心理」をくすぐっています。 例えば、中1の女の子が「私、将来アイドルになるの」と言えば、「何を夢みたいなことを言っている。それよりもちゃんと勉強しなさい」と言われるのがオチです。しかし、その子がアイドルを目指して…月曜日と木曜日は歌のレッスン、火曜日と金曜日はダンスの稽古、水曜日と土曜日は演技のレッスンを受け、毎日5キロのランニングと発声練習を欠かさない…という姿を知れば、「がんばれよ、応援しているからな」と思うはずです。 人は「人が本気で目標に向かっている姿」に感動し、感情移入をします。そして人は同時に、感動すると行動に移さざるを得ないという性質を持っています。リーダーの役割が人を動かすことにあるのならば、周囲を感動させるだけの情熱で取り組む姿勢が不可欠です。我々指導者の使命は「将来の日本のリーダー作り」です。ならば勉強に(もちろん、勉強だけに限ったことではないですが)本気で取り組むことを教えなければなりません。そして、生徒を動かすためには我々指導者が本気になることです。「情熱+技術(スキル)=プロ」と言われますが、情熱は絶対の必要条件です。
あなたの本気度が試されている
塾経営も同じです。現場の教師が生徒の学力向上のために、どれだけ本気で取り組んでいるか。経営者が塾生獲得のためにどれだけ本気で取り組んでいるか…それが問われています。その本気度が人を感動させ、感動が人を動かします。誰もが感動した映画を見た後は、周囲の人に「ねえ、あの映画見た?」と自ら話題を切り出します。海外旅行から帰って来ると、身銭を切ってまで用意したお土産を渡しながら、「あのビーチで見たサンセットは素晴らしかった」と話すのです。
以前にもお話しましたが、期待値に届いただけでは「満足」に留まり、人は「満足」では行動に移しません。それは「当たり前」と思います。塾で言うと、「高い授業料を払っているのだから、教師が一生懸命に指導するのは当たり前だ」と思っています。そこを超えて初めて感動が生まれます。つまり、塾の教師が「塾の教師が言いそうなこと、やりそうなこと」を言ったりやったりしているうちは、感動を提供することはできないのです。そこを超えなければ、あなたの「本気」が伝わらないのです。
篠田麻里子さんのスピーチも示唆に富んでいます。チーム最年長の彼女は次のように言いました。
「後輩に席を譲れと言う人もいるかもしれませんが、私は席を譲らなければ上に上がれないようなメンバーは、AKBでは勝てないと思います」
多くの塾人と話していると、「あの塾(地域一番塾)があるから生徒が集まらない」「あの塾がこの地域に進出してきて生徒が減った」という話を聞くことがあります。しかし、原因を外に求めている間は、その塾に勝つことはないでしょう。確かに縮小均衡市場では、「どこかの客が増えれば、あなたの客が減る」という現象が生まれます。だからこそ本気で生徒を増やすことが必要なのです。各塾が健全な競争を経て、より良い学習環境を地域に提供することが業界全体に課せられた使命です。それを可能にするのは、本気と本気のぶつかり合い以外にありません。 さて、あなたの塾の本気度はどうでしょう。例えば、「本気で授業のクオリティを高める努力」をしていますか?それは、生徒・保護者が「そこまでやっているのか」と感動するだけの取り組みでなければなりません。先日拝見した某塾講師の授業は、お世辞にもクオリティが高いとは言えませんでした。与えられた使用教材に添って、通り一遍の説明をしているだけです。そこには生徒にとっての新たな発見も、感動もありません。 塾にとっての商品である「授業」には2つの役目があります。1つは言うまでもないことですが、新たな知識を学ばせ、習得させることです。もう1つは、授業を通して生徒のモチベーションを高めることです。帰宅後、小学生が「ねえ、お母ちゃん。今日、塾の先生がねえ…」と親に話したくなるような授業を提供することです。中学生が「よし、やるぞ!」と学習意欲を高め、帰宅してすぐに机に向かう姿勢を見せるような授業を展開することです。そして、全ての生徒が次の授業を待ち遠しいと思わせる授業を作り上げることです。塾教師にとっての「予習」とは、それを目的にしなければなりません。 我々がウサイン・ボルトの走る姿に感動するのは、あの十秒にも満たない「走り」の向こうに、我々が真似のできない厳しい訓練の日々が見えるからです。AKBのステージに感動するのも理由は同じです。確かに、クオリティの高さとしてはショウ・ビジネスのプロと比べるまでもありませんが、やはり彼女達の努力の日々が透けて見えます。その意味では、プロ野球よりも甲子園球児に近いのかもしれません。 我々が二十歳前後の少女達に本気度で負けるわけにはいきません。彼女達は「AKBに全てを奉げる覚悟をしている」と本気で言います。我々も学習指導に、塾経営に、全てを奉げる覚悟をしましょう。そうした覚悟を持った集団が塾を形成すれば、必ず相手(保護者・生徒・地域)を感動させ、行動させ…多くの塾生を獲得することにつながるはずです。AKBのマーケティング手法については来月号で解説します。