この記事は塾生獲得実践会の森智勝氏のご厚意により、全国学習塾援護会のHPから転載したものです。
-ワン・ツー・ワン・マーケティングの威力-
AKBに見るワン・ツー・ワン・マーケティング
前回に続き、AKBから学ぶべきことについてお話します。AKBに関しては、批判的な意見が存在することも承知しています。「投票権をエサにして若者にCDを大量に買わせる手法」を批判する人は多いでしょう。しかし、初年度を除いて、現実には「投票権付CD」よりも、総選挙後の選抜メンバーでリリースされたCDの方が売れています。大人の良識で?批判することは簡単ですが、その向こうにある真実を見る目が曇るのは避けたいものです。アンテナを立てていれば、全くの異分野からも学ぶべきものはあります。「小さな成功は同業者から、大きな成功は異業者から」というのがマーケティングの常識です。 当初、業界関係者の間ではAKBの将来性について否定的な意見が多かったと言われています。常に数十人のメンバーが移動しますので、掛かる経費は膨大です。一緒に移動するスタッフの数も半端ではありません。現在のように音楽不況の時代、CDが数十万枚売れたとしても採算が取れないだろうというのが大方の見方でした。実際、AKB以前に秋元氏がプロデュースして一世を風靡した「おニゃん子クラブ」の主要メンバーの月収は、十数万円程度だったようです。 その常識を打ち破ったのが、ワン・ツー・ワン・マーケティングの導入です。 ワン・ツー・ワン・マーケティングは、その名の通り、店(商品)と顧客が1対1の関係を持つマーケティング法です。例えばユニクロは、四十八色のフリーズを販売して急成長を遂げました。それまでの既製服は、多くても五色程度を揃えるのが限界でした。それを四十八色にすることによって、客は「私だけの色」を選ぶことができます。イオンが発売したランドセルもそうです。それまでのランドセルと言えば、女子は赤、男子は黒に限定されていました。そこに二十四色のラインナップを投入したのです。そのため、「自分だけの色」を求める子供たちが祖父母の手に引かれて店舗に殺到しました。「自分だけの…」は、いつの時代でも購買ファクターの上位に位置しています。 さて、AKBです。AKBのファンは同時に、前田敦子のファンでもあります。大島優子のファンもいます。きっと、無名の研究生を「押しメン」(一押しメンバー)にしているファンも大勢いることでしょう。つまり、ファンはAKBというグループのファンでありながら、それぞれの「個」とワン・ツー・ワンの関係を濃密に築いているのです。 もちろん、それまでのアイドルグループにも同じ傾向はありました。スマップに代表されるジャニーズ系グループ、前出の「おニゃん子クラブ」、「モーニング娘。」にも見られたことです。しかしAKBは、それを究極まで推し進めています。その象徴が「握手会」と「総選挙」です。 握手会に参加するファンは、お目当てのメンバーの列に並びます。いつまでも列の絶えないメンバーもいれば、誰も来ずに暇にしているメンバーもいます。それは残酷なまでの風景です。今まで、こんなファンとの交流方法を採用したアイドルグループはなかったでしょう。今年の総選挙で三位になった柏木由紀は、握手会の女王と呼ばれています。何度も来てくれるファンには「覚えているよ」「また来てくれてありがとう」と声を掛けるそうです。そうしたことでファンとのワン・ツー・ワンを構築してきました。 言ってみれば、AKBそのものがフロント商品であり、バックヤード商品はメンバーそれぞれの「個」という戦略です。そのためか、メンバーの所属事務所はバラバラです。まずは全体としてのAKBが「見込み客」を惹き付け、そこからメンバーひとり一人の固定ファンを作り出す仕組みができているのです。それが、AKBの人気を長く持続させる秘訣になっています。
塾経営のワン・ツー・ワン・マーケティング
さて、「塾」です。こうして見てくると、「塾」と「AKB」の共通点が見えてきます。やはり見込み客は塾全体のイメージ…実績であったり、授業の評判であったりに惹かれて門をくぐります。しかし、その後は「あなた独自のファン」としてワン・ツー・ワンの関係を構築していかなければなりません。「○○先生がいるから□□塾へ行く」という生徒を増やしていくことです。ややもすると、現場教師は勘違いをしています。目の前の多くの塾生が自分の力で集まっていると思い込んでいます。(それが勘違いだと気付くのは、独立開業した後という例を数多く見てきました) 多くのワン・ツー・ワンの関係を構築した教師が組織を作ることで「1+1=2+α」という付加価値を生み出します。目の前の生徒をワン・オブ・ゼムで見ている教師は、生徒からも同様に見られていることを肝に銘じてください。 複数教師が存在している塾は、フロント商品としての「塾のイメージ」と、バックヤード商品としての「教師ひとり一人の力量」を分けて考えることです。すると、新人に適当な研修をして「じゃあ、このクラスの英語、お願いね」と丸投げすることがどれだけ危険かが理解できると思います。事前のイメージで期待してきた生徒が、実際の授業(教師)でガッカリする…最悪のパターンです。その落差が激しければ激しいほど、負の評判が高くなります。 AKBのワン・ツー・ワン戦略で特筆したいのは「スター作り」の巧妙さです。十六歳時の前田敦子を見て現在を予言できたのは秋元氏ただ1人でしょう。逆の見方をすると、センター(スター)に抜擢されたことが今の前田敦子を作ったとも言えます。 マーケティング的に言っても、スターを作ることは有効です。あるダンス教室は、1度だけバックで踊ったことのあるインストラクターのプロフィールに堂々と「郷ひろみと競演」と書いてありました。人は、そうした肩書きに強く反応するものです。いつも強調しますが、商品が偽物ならば逆効果も強くなります。ホームページに「カリスマ教師」と紹介されていた方の授業を見学して唖然としたことは一度や二度ではありません。 つまり、提供する商品が本物ならば、スターを作ることに抵抗感を持つ必要はさらさらないのです。韓国の予備校の宣伝は、「ミスコンの宣伝か?」と勘違いするほどイケメン・イケジョ教師が登場します。男子生徒にとって「美人の先生」は魅力的ですし、女子生徒にとっても憧れです。イケメン教師の存在だけで、入塾を希望する女子生徒も多いのでしょう。それは、生徒たちの自然な感情ですから致し方ないことです。批判を承知で言えば、同じ力量ならば「美男・美女」を教師に揃えた方がビジネス的に有利だというのは自明です。 日本人は奥床しいので、「東大卒」の経歴を強調しない人がいます。トーイック八百点を自慢しない人がいます。謙虚は美徳ですが、ビジネスの手法としてはもったいない。堂々と主張して構わないと考えます。それで一人でも勉強に悩んでいる生徒を救えるのでしたら、「偽善も善」です。 中小・個人塾の場合は、言うまでもないことですが、スター候補の一番は「あなた」です。あなたが地域のオンリーワンになることを目指してください。