この記事は塾生獲得実践会の森智勝氏のご厚意により、全国学習塾援護会のHPから転載したものです。
大変だ!大手塾がやってきた!
中小塾にとって生き残りをかけた…という淘汰の時代が終焉を迎えようとしています。これからは「勝ち残り」をかけた新たな戦いが始まります。私は来年度を「中小塾逆襲元年」と位置付け、それをテーマに全国私塾情報センター主催の4大都市学習塾経営セミナーで講演をしてきました。 とは言え、塾の現場ではまだまだ熾烈な生き残り競争が続いているのも事実です。地域に大手塾が進出してくることは脅威であることに間違いはありません。
ある塾から次のようなメールが飛び込んできました。
森先生へ ○○駅前に、▲▲センターのビルが立ちました。冬期講習から募集開始です。今日、新規開校のチラシが入りました。無料で来るかな?と思っていたのですが、正規料金の半額です。小3から高2までのラインアップです。 これで○○駅前のメインストリート約1キロ以内の所に、▲▲センター、□□、現在○○で2番手の◎◎アカデミー、■■学院、そして、その正面に個別の△△塾がズラリと並びました。 そこで、問題なのですが、▲▲センターを迎え撃つ□□が、今まで以上の本気モードで、今日、超大判のチラシを入れてきました。中学3年の冬期は、10:30~17:30の1週間、5教科で25,000円、正月特訓も入れた10日間のセット料金が、48,000円です。更に高校部は冬期90分×5回の3講座を無料にしてきました。 この現状に、塾長もあせっています。話の順序として、我々はこうする!という案を森さんにぶつけて、それについてコメントやアドバイスを頂くのが筋なのですが、今回の件については、いわゆる「頭が真っ白」の状態です。この状態を打破するための具体的なヒントを頂けないでしょうか? もちろん、森さんのヒントを元に、我々が具合策を考えていきますので、申し訳ありませんが、今回は目をつぶって頂いて、こちらからの案がない状態でアドバイスを下さい!よろしくお願いします。
今年勃発した札幌塾戦争?の例を見るまでもなく、1つの大手塾が進出してくると既存の大手塾との間に熾烈なシェア争いが起こります。そのこと自体は悪いことではありません。消費者にとってはサービスの向上と価格の低下が期待され、歓迎すべきことです。しかし、中小塾にとっては重大な局面を迎えます。
月刊「私塾界」でも報道されたように「お手上げ状態」になってしまいます。このメールを送ってきた教室長も「頭が真っ白の状態」と告白しています。 多くの中小塾に共通する弱点として「情報収集力の欠如」と「行動力の欠如」が挙げられます。この先生も「今日、新規開講のチラシが入りました。」とあるように、チラシを見て初めて危機感を持ったようです。
遅い!秀吉の墨俣城ではないのですから、▲▲センターのビルが3日で建つわけがありません。事前に分かっていたはずです。その証拠に「▲▲センターを迎え撃つ□□が、今まで以上の本気モードで、今日、超大判のチラシを入れてきました。」とあるように、大手塾は着々と対抗策を立てています。
日本人は言霊の世界に生きています。言霊とは「言葉にしたことは現実のものになる」という原始宗教のようなものです。ですから我々は結婚式で「切れる」「分かれる」という言葉を避けますし、受験生の前では「すべる」という言葉は使いません。「スルメ」をあえて「アタリメ」と呼ぶのも同じ心境からです。それはそれで美しい文化を創造してきたのですが、反面、「危機管理の欠如」という欠点をもたらします。悪い想定をすると、それが現実のものになってしまうので、できるだけ考えない、避けようとしてしまうのです。戦時中、冷静な判断で「日本国の敗戦の危険性」を唱えようものなら「敗戦を望む非国民」のレッテルを貼られてしまう…あの状態です。
今回の大手塾進出も、事前に(多少遅いとは言え)分かっていたはずなのです。しかし、悪い想定はしたくないので無意識のうちに考えないようにしていた…それが真相でしょう。本来は、いつ大手塾が進出してきてもいいように常に対策を採り続ける必要、つまり危機管理が必要なのですが、それができていない。
多くの中小塾に見られる共通した欠点です。結果、よく言われる「幸せなゆでガエル」状態に陥ってしまいます。
コミュニケーション戦略の充実を図れ
さて、大手塾が「半額」「無料」の大攻勢に来たとき、中小塾はどう迎え撃つべきか。私は同じ土俵で戦うこと、つまり値下げ競争に参加することはお勧めしません。大手に対抗して無料作戦を採ると体力勝負になります。とても中小塾は敵いません。また、価格による差別化を放棄することになるので、消費者から見た場合「同じ無料なら大手塾へ」という判断が働きます。
こうした場合、一番に考えなければならないのは「内部の充実」です。どうしても強烈なチラシ、価格に目を奪われがちになりますが、こうした時こそ「対市場」ではなく「対顧客」に目を向けるべきです。目指すは「大手塾○○が進出してきても、1人の流出もなかった塾」です。そのことが、市場が落ち着いた後に強烈な暗黙知として認識されることにつながります。慌てて価格戦略に走り、後追いでチラシを作っても効果はありません。
あなたの塾には今、あなたを信頼して通ってくれている塾生がいます。その1人ひとりを文字通り大切にすることです。そして、彼らがなぜ通ってくれているのかという「自塾の強み」を常に把握することです。塾側が考えている「強み」と塾生(家庭)の考えるそれとは違っていることがあります。方法は簡単です。聞けばいいのです、「客」に。
多くの企業が「顧客満足度」の把握のためアンケートを実施しています。しかし、その多くは「Aとても満足、Bやや満足、C普通、Dやや不満、E不満」形式のタイプになっています。筆記者の手間とデータの数値化を考えてのことでしょうが、これでは本当の消費者(顧客)心理は掴(つか)めません。アンケートは基本的に自由筆記にすべきです。面倒な形式だからこそ本音も見え、何より塾のコアなファンが分かります。手間を厭(いと)わず長文の回答を寄せてくれた家庭は、間違いなく塾を信頼してくれているコアなファンです。その長文の回答の中にこそ、自塾の本当の暗黙知は存在します。それが市場に伝えるべき自塾の「強み」です。
こうしたアンケートを実施することはご家庭とのコミュニケーションを密にする手段でもあります。中にはクレームを書いてくる場合もあるでしょう。その時に必要なことは、けっして「すみません」を言わないことです。「ありがとうございます」を言わなければなりません。例えば次のように。
「ありがとうございます。私が気付かずにいた不備をいち早くお教えいただきました。早速、次のような対処を実行いたします。ご指摘のお陰で、当塾も1つ成長することが出来ます。今後ともお気づきの点は何なりとお申し付け下さい。」
「ありがとうございます」を言うことは「対策を講じる」ことにつながります。そうして初めてクレームに応えたことになります。ひたすら謝って「嵐が過ぎるのを待つ態度」では何の前進もありません。 もう一度言います。あなたが目指すのは「大手塾が進出してきても1人の流出もない塾」です。それは日頃のコミュニケーション戦略に掛かっています。決して価格戦略ではありません。廉価を売り物にして集客している家電量販店は、より廉価を提示する店が現れた瞬間に全ての客を失います。低価格競争で勝ち残るのは1店舗だけです。
大手塾が進出してきてもびくともしない塾。それは確実に「勝ち残る塾」です。
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