この記事は塾生獲得実践会の森智勝氏のご厚意により、全国学習塾援護会のHPから転載したものです。
顧客離れの理由Ⅲ「忘れる」
前月に引き続き、全国私塾情報センター主催の「秋季4大都市縦断セミナー」での講演の後半部分についてお話します。先月号では顧客離れの理由として「卒業」と「飽きる」を挙げました。3つ目の理由は「忘れる」です。 もちろん、文字通り「記憶を亡くす」という意味ではありません。習慣としての行動を体が忘れるという意味です。あなたの塾でも過去に次のようなことがありませんでしたでしょうか。 ある時、母親から電話が掛かってきます。
「先生、すみません。娘のピアノの発表会が2月にあるので、それまで2ヶ月間、塾をお休みしたいのですが。」
こうした時、やはり塾長は太っ腹?を見せたいので次のように言います。
「分かりました。小さなときから取り組んできたピアノです。納得のいくまでやらせてあげて下さい。もし、塾に復帰されたとき学習面の遅れがありましたら、私たちが全面的にバックアップして遅れを取り戻しますのでご心配なく。」
ところが、やはり6割の子が塾には戻ってきません。家庭では母子で次のような会話が交わされています。
「お母さん、ずっとピアノの練習で疲れちゃった。塾に通うの4月からでいい?」 「そうね。このところ毎日5時間も6時間もピアノ弾いていたからね。少し、休憩しましょうか。」
こうなると、母子の心に先月号でお話した「常連客独特の感情」が芽生えます。「3月になったら塾に戻ると約束したのに…塾長に悪いな。」 塾側も受験や春期募集の慌ただしさに忙殺されています。3月も末になって、やっと気づいて電話を掛けます。
「3月になりましたが、○○ちゃん、どうしていますか。」 「すみません。娘が少しの間、自分の力で勉強したいと言い出しまして…。いえ、どうせ出来なくて、すぐにお世話になると思います。その時はお電話しますので、また、よろしくお願いします。」
…二度と電話は掛かってきません。次に塾に通うときは、間違いなく別の塾に行くことでしょう。
なぜ、こうした現象が起こってしまうのか。実は、子供が言う「疲れた」は表面上の理由であり、本当は体のリズム(習慣)が塾に通うことを忘れてしまっているのです。
以前、21日間感動プログラム(神田氏命名)についてお話したことがあります。人は「21日間同じことを続けていると、それが日常になる習性を持っている」という原則のことです。ですから、入塾後21日間のうちに塾の良さを徹底してアピールしましょうという趣旨だったのですが、同じ原則が働くのです。つまり、21日間、塾に通わずにいると、「塾に行かないこと」が日常になってしまうのです。これが「忘れる」の正体です。そして、最もいけないのは、塾側も生徒のことを忘れてしまうことです。こうした場合、塾側が「あなたのことを忘れていませんよ。」というメッセージ(アピール)を3週間以内に(理想は2週間に1度の割合で)実行しなければなりません。
塾の休塾には様々な理由があります。ピアノの発表会、スポーツの大会、夏休みの帰省、長期入院…。そうした時、例えばニュースレターを定期的に送るとか、塾内模試を送って「自宅で解いて送り返してくれたら添削して資料と一緒に再送します」という案内をするとか…とにかく「あなたのことを忘れていませんよ」というアピールを続けることです。
先月号の「卒業」とリンクする問題ですが、多くの中小塾経営者が自慢をします。
「私は塾生の名前を1期生から全員覚えています。」
ところが、「では、年に1回でも連絡を取っていますか?」と尋ねると「いえ、そうしたことはしていません。」となってしまいます。これでは、いくら「覚えています」と言っても、塾生にとっては「忘れられている」のと変わりません。塾が忘れているのに、生徒側にだけ塾のことを覚えていて欲しいというのは無理な要求です。
感動を「形」で表すこと
退塾の3大要素について説明してきましたが、それを防ぐ根本的な対策は「感動のある場所」を作り続けることです。以前も「授業を売るな、感動を売れ!」というテーマでお話したのですが、塾経営者は「感動」の意味(もちろんビジネス上の意味)を分かっていません。「感動」の対義語は意外に思うかもしれませんが「満足」です。 消費活動は売り手と買い手の共通認識による「商品」と「お金」の等値交換です。私たちは120円と交換で缶コーヒーを手にします。その時、120円分の価値を認めたとき「満足」と表現します。しかし、あくまでも等値交換ですから、その満足を「当たり前」と思っています。もし、120円分に届かないときは、全て「不満」ということになります。 塾で言うと、塾が熱心に教える、とことん面倒見る、成績を上げる、志望校に合格させる…は顧客にしてみると「当たり前」なのです。「だって高い授業料を払っているのだから」という理屈です。つまり、「満足」のレベルは「当たり前」なので、けっしてリピーターにもならず、口コミ・紹介にもつながりません。 この「満足」を突き抜けた部分が「感動」です。人は「感動」を体験すると、別のメカニズムが働き始めます。今度は誰かに話さずにはいられなくなるのです。映画を見て感動した人は、友人に「ねえ、あの映画見た?」と話しかけることになります。海外旅行から帰った人は身銭を切ってお土産を用意してまで旅の感動を伝え歩くものです。これが感動のメカニズムです。 あなたは毎日1つ、塾生に感動を持ち帰らせていますか?「小さな変化」「小ネタ集」等、先週までにご提案したものは、この感動の創造に他なりません。 重要なことは、やはり全てスローガンでは終わらずに「形」にしていくことです。 最後に緊急に取り組むべき「形」をご提案します。「入塾案内」です。あなたの塾の入塾案内はどのようになっていますでしょうか。多くの塾がA4かB4のプリント一枚で済ませてしまっています。中には「ほとんどチラシを見せて説明しています。」という塾さえあります。これではいくら「熱心に」「とことん」と強調しても相手には伝わりません。入塾案内はドサッと渡せるくらいの量が必要です。このドサッという重みで、相手は塾の熱意を実感します。やはり「形」で表さなければならないのです。「春期講習の案内」も同様です。A4の紙1枚に「今年も例年のように下記の日程で春期講習を行ないます。受講希望者は講習料を添えて…」では相手(保護者)は動いてくれません。こうした案内を見た保護者(ほとんどの場合、母親)はどう思うか。 「ああ、またお金が掛かる…」と、ため息をついているのです。 この春、あなたの塾が飛躍できるかどうかは「感動」を「形」に表す実践に掛かっています。