この記事は塾生獲得実践会の森智勝氏のご厚意により、全国学習塾援護会のHPから転載したものです。
私は現在、本誌主催の「全国縦断学習塾経営セミナー」を中心とする全国行脚の真っ最中です。南は鹿児島から北は札幌までの主要都市を訪問しました。本号がお手元に届く頃は、セミナー行脚も一段落している頃でしょう。本当に多くの方にお世話になりました。紙面をお借りして御礼申し上げます。今回は、セミナーの中でお話したこと、気付いたことをお話します。
塾業界/春期募集の現状
ここ数年、毎年のように「今年は生徒(客)の動きが鈍い」という声を聞きます。年々、入塾する時期が遅くなっているようです。特に、新中1の動きが悪い。小学校に絶対評価が導入され、同時に「ゆとりの教育」なるものが浸透するに従い、小学生を持つ家庭の教育ニーズは下がる一方です。教科書は「絵本」と間違うような風体になり、学校での学習内容はどんどん薄くなっています。テストはほとんどの児童が八十点を取れるほどの簡単さで、結果、通知表には○(三段階評価の真ん中)がついてしまいます。保護者は「息子の学力は真ん中ね。」と安心しています。当然、塾に対するニーズは高まりません。以前ならば中学進学が一つのきっかけとなって入塾へと動いたのですが、危機感の薄い家庭は中学生になっても様子見をすることになります。
ところが家庭でも意識が2極化?しているせいか、一部の塾は春期で昨年比を上回る集客を達成しています。教育意識の高い家庭は良い塾を探すことに敏感です。満席になる前に…と行動に移しているようです。やはり、「いつでも入れる塾」に行列はできません。
暗黙知を持たない塾は支持されない
前記の理由で、ここ数年「学校授業に準拠した補習塾(特に小学生部門)」は不振の極(きわ)みです。今、小学生を集めている塾は中学受験塾であり、英会話であり、サッカー教室です。いずれも「学校では教えない分野」が好調です。
かつて、塾が必要悪と言われ、何か問題が起こる度に諸悪の根源のように指摘された時代がありました。その時、塾人自らが正当性を主張するために「塾は学校の補完機関」という理論武装を始めました。二十年前は通用した理論武装も、現在では意味を成しません。学校での教育レベルの低下に従い、補完機関へのニーズは確実に消滅へと向かっているのです。依然として小学生対象の補習塾を標榜している塾は(例えは悪いですが)魚のいない池で釣り糸を垂れているようなものです。(もちろん、戦略的に救済塾を標榜して成功している塾もあります。)
この小学生部門に起こっている現象が遠からず中学生部門にも浸透してきます。既に中学校でも絶対評価が導入され、公立の合格率は限りなく1倍に近づいています。これまで塾業界のボディゾーンであった中学生の受験ニーズは確実に低下しています。中高一貫公立校の増加もあって、これからの受験ニーズの中心は中学受験と大学受験の2極化へと向かっています。
この時代の変化は塾に対しても深刻な変化を求めています。大部分の中小塾が採用している「教科書準拠のワーク」による補習授業と、定期テスト対策に中心を置いたカリキュラムでは通用しなくなるのです。少なくともそこに1つ、塾独自の暗黙知を持たなければ市場から支持されなくなってしまいます。
バブル経済の崩壊を転機として、ビジネスのマーケティング方法も大きく変わってきました。それまでの「大量生産、大量消費」の時代には資本の論理が通用していました。言ってみれば「より良いものをより安く」を目指したわけです。ところが現在の指標は(同じ表現を借りれば)「どこにもないものをより高く」になっています。塾業界でも同じです。「どこにでもある塾」は通用しません。ココにしかないもの(暗黙知)を掲げ、それを喜んで求めに来る「客」だけを対象とするビジネスを構築しなければなりません。私が常々「セグメントの重要性」を強調する理由がココにあります。「学校と同じこと」「他塾と同じこと」をやっていてはダメなのです。「あなたにしかできないこと」「自塾でしか提供できないサービス」を構築し、それが有効と思われる「見込み客」を集めるマーケティング手法が必要となってきます。
理由は簡単です。消費者の意識が変わってしまったからです。もう、「人と同じ」は嫌われる時代です。オシャレな若い女性は泳ぎに行くとき、数着の水着を用意します。万が一、同じ水着を着ている人がいれば着替えるためです。ユニクロが40色以上のフリーズを作るのも、イオンが24色のランドセルを販売するのも同じ理屈からです。「自分だけ」「あなただけ」がキーワードです。保護者の意識も「塾がどんな指導をするか」ではなく、「我が子にどんな指導をしてくれるか」に変わっています。以前お話したことですが、費用対効果について実にシビアになっているのです。そうした場合、チラシや講習案内で「当塾は~します」を連呼するのは逆効果です。「子供は~なります」というメッセージを伝えることが必要です。主語を「わたしは」ではなく「あなたは」にして発想することです。こうした相手側の感情に立った考え方を「感情の論理」と言います。言ってみれば、時代は「資本の論理」から「感情の論理」へと変わっているのです。
あなたの人間力を高めることが必須
以前から主張していることですが、中小個人塾が持っている暗黙知の一番は「あなた自身」です。「あなた」は「あなたの塾」にしか存在しません。ですから、あなた自身にまず投資をして力量を高め、人間的魅力(人間力)を高めなければいけません。セミナー等に積極的に参加することは、そのための有効な手段です。講演をしていていつも思うことがあります。「こうした話はこの場に来ない人にこそ伝えたい。」そう、時間を惜しまず参加する勉強熱心な方は、それだけで充分魅力的な人物です。誰もが向上心旺盛な人には魅力を感じるものです。 ところが、中には残念な光景に出会うことがあります。あるセミナーでのことです。終了後、主催者、協賛者全員で後片付けをしていると、ある一角に出席者が持ち込んだと思われるジュースの缶が数本、置きっ放しになっていました。何本かはまだ缶の中にコーヒーが残っています。机の上にはチョコレートの空き箱と大量にこぼしたコーヒーの跡が残っていました。缶を片付け、主催者が机を拭いている姿を眺めながら暗澹たる気持ちになりました。「あの人たちの教室はどうなっているのだろう。」その時の気持ちを正直に言えば「あの人たちに子供を教える資格は無い」と思いました。私が提唱する「人間力」の対極です。 さて、出足の遅い新中1は、いつ行動(入塾)に移すか。当然、最初の定期テストで危機感を覚えたときです。あるいは1学期の通知表を目にしたときでしょうか。春期の募集が不振なのに反比例して夏期の募集が活発化しています。ぜひ、あきらめずに「夏の募集作戦」を練ってください。中には夏期講習のチラシを出さない塾がありますが、理由が既に満席状態ならばいいのですが、そうでなければ夏のアプローチは有効です。紹介制度と合わせて取り組んでください。 あなたの塾を必要としている人は大勢いるのですから。