この記事は塾生獲得実践会の森智勝氏のご厚意により、全国学習塾援護会のHPから転載したものです。
各塾では来春に向けた準備をそろそろ始める時期になりました。今のうちに取り組まないと、すぐに冬期講習、受験直前講習等が始まり、忙しさに追われ、結局、構想を練る時間もなく、去年と同じスタイルで新学期を迎えるということになりかねません。是非、今のうちに自塾のシステムを見直し、来春に向けた改革を始めてください。ポイントは暗黙知の創造と理論武装です。
入塾案内を充実させる
「どこから手を付ければいいのかわからない」という方は、まず、入塾案内の見直しから始めることをお勧めします。「人は形に反応する」という話を何度もしてきましたが、入塾案内は、あなたの塾全てを市場に知らせる「形」、コミュニケーションツールそのものです。問い合わせてきた保護者に対して、充実した案内を提供することは重要です。保護者はその渡された入塾案内の重さ、量、ドサッと受け取るその手応えで、その塾の「熱心さ」や「こだわり」、そして「面倒見の良さ」を感じ取るものです。少なくとも、A4版1枚の案内で、あなたの塾のすべてをお知らせすることは不可能なはずです。ましてや、面倒見の良さは伝わりません。何も思いつかなければ、ニュースレター合本や進学資料、新聞記事の切り抜きでも構いません。ぜひ、ドサッと渡せるだけの「量」を目指してください。(質より量の法則)
充実した入塾案内を作ることは、塾の体質を強化する最も効果的な方法でもあります。その作業を通して自塾を見直すことで、弱点や強み、そして何より「自塾の暗黙知」を再確認できます。
入塾案内には、塾の全てが表されていなければなりません。そして、ここが肝心なことなのですが、それぞれに、しっかりとした理論武装を付記することです。多くの塾が「慣例として」、あるいは「他の塾もやってるから」という理由で、あまり深く考えもせずに実施していることが沢山あります。塾業界とっては常識とされていることでも、一般社会では非常識と捉えられることもあります。保護者に「なるほど」と思わせる理論武装を用意することは、塾への信頼、安心につながる重要な要素です。
たとえば、多くの塾が入塾金という名目の費用を請求しますが、これは何の対価としていただいているのでしょうか。保護者から尋ねられたとき、あなたは明確な回答を提供することができますか。「客」の立場に立つと「理由のない費用は1円だって払いたくない」というのが本音です。
この入塾金の問題は、もう一つ深刻な問題を抱えています。あなたの塾が社員講師を採用している場合、そして、入塾面談を社員が行っている場合のこと考えてください。塾で働こうという教育熱心な人は、少なからず子供や保護者に対して感情移入をしているものです。もし、その社員が入塾金に対して明確な理由を見つけられないとしたら、彼らは大きな「後ろめたさ」を感じているはずです。この後ろめたさを抱えたままでは、保護者、生徒を納得させるような面談を実施することは難しいと思ってください。もちろん、入塾金がなぜ必要かと問う保護者はごく少数でしょう。しかし、たとえば「この入塾金2万円は、入塾に際しての学力診断テストと、それをもとにしたカリキュラムの作成、そして学習カウンセリングの対価として頂戴しています」と明確な答えを用意しておけば、社員の誰もが自信を持って面談に臨むことができるはずです。
クラス定員についても同様です。なぜ定員が12名なのですかと尋ねると、「部屋の大きさからいって、それ以上入らないから」と答える塾長がいます。これでは見込み客を納得させることはできません。例えば「子供たち一人ひとりの表情まで講師が注意し、かつ、集団授業としての熱気を最大限に確保できる最適人数が12名です」のような理論武装(説明)をすることで、あなたの意図が相手に伝わります。
また、昨年来、成績保証を謳う塾が増えてきました。火付け役は「プラス20点保証」を打ち出して大成長している株式会社スプリックスの森塾ですが、その表面上の成績保証だけを真似ても、同じような集客を実現することは不可能です。森塾は、その成績保証を裏付けるために自社で「フォレスタ」という独自教材を開発しています。その開発費には年間数億円を投入していると言われています。このフォレスタが成績保証の大きな理論武装になっているのです。ところが、多くの塾が成績保証を打ち出しても、それに対する理論武装ができていません。たとえば、チラシの中で大きく成績保証を謳うのはいいのですが、その下のリード分には「知識の定着とトレーニング+徹底した実践演習」としか書いてなかったりします。これでは読者を十分に納得させ、あるいは感動させ、行動に移してもらうことは難しいでしょう。
成績保証制度そのものを否定しているのではありません。その理論武装が機能してこそ「成績保証」が生きるのです。
理論武装で体質の強化を図る
理論武装を考えることは、相手を納得させるために必要なのですが、同時に、根本的な問いかけをあなたに発します。前述の「定員」の問題を例に取れば、本当に12名が最適なのだろうかという疑問が自ずと生じてきます。そうした自問自答の作業が塾の現状認識と改善点の発見のために有効になってきます。 塾の理念、あるいは方針と呼ばれるものも重要です。以前「人はデジタルには感心するが感動はしない」という話をしましたが、同様のことが指導技術と理念の間にも存在します。もちろん、塾の役目は塾生の成績を上げ志望校に合格させることであり、その点で手を抜いてもいいというわけではありませんが、塾というビジネスが人と人との関わりで成立する「アナログ産業」であるという観点からすると、それだけでは不十分です。あなたの「そつのない効率的な学習指導」に感心はしてくれるでしょうが、それだけで感動を与えることはできません。そうした技術を超えた人間力に触れたとき、人は感動するのです。つまり、あなたが生涯の仕事として塾を選んだ、その思い・情熱が伝わってはじめて相手は感動してくれます。その思いを伝えるもの、それが塾の理念であり方針なのです。特に個人塾の場合、この点が伝わらないと十分な集客につながらないものです。「塾=人」です。塾はあなたそのものです。今の時期に、もう一度創業時の情熱を思い出し、それを文章化することにトライしてください。もともと塾経営を志した動機には熱いものがあったはずです。ところが、長い塾生活のなかで、いつの間にか惰性に陥り職人化してしまっている塾経営者を多く見かけます。自分のエネルギーの大半を授業や教材作成に費やし、良い授業を、熱心な授業をしていれば、自然と口コミ評判が広がって生徒が集まってくると考えている人は、その典型です。何度も言いますが、高い技能は重要ですが、それだけで人を感動させることは無理です。感動がなければ、人を行動させることもできません。 さあ、あなたの塾の入塾案内を見直すことで、塾の体質強化を図りましょう。指導時間はなぜ週5時間なのか。指導科目はなぜ4科目なのか。なぜ、その教材を採用しているのか。なぜ、なぜ…?その1つ1つに塾の回答を作ってください。それが理論武装であり、市場を説得する武器になっていきます。 拡大発展市場における消費者の購買理由は単純です。「不所持」です。車を持っていないから「車がほしい」と思うのです。ところが、ほとんどの人が車を所有している現在では、いくら新しい車が発売され、その性能が素晴らしいと力説しても、消費者にはそれを購入する理由がありません。そうした時、売り手に必要なことは、消費者に対して購買理由を提示することです。いかにその車があなたに相応しく、購入することで幸せになれるかを納得させることです。 塾も同じです。同一市場にこれだけ多くの塾が存在している場合、わざわざ「あなたの塾を選択する理由」が分からないのです。「この塾こそ私(我が子)のための塾だ」と思わせる暗黙知と理論武装を構築することです。それは、来春に多くの塾生を獲得するために必須の基礎的作業です。