中小塾のためのマーケティング講座52 闇夜にクレバスを跳べ!
- 森智勝
- 2024年7月23日
- 読了時間: 6分
この記事は塾生獲得実践会の森智勝氏のご厚意により、全国学習塾援護会のHPから転載したものです。
闇夜にクレバスを跳ぶこととは
自然科学の世界ではアインシュタインの相対性理論以来、百年ぶりの大発見と言われている「5次元時空論」が注目を浴びています。ハーバード大学物理学部教授であるリサ・ランドール女史が99年に発表した論で、「縦、横、高さ、時間という4次元時空に加えて、5次元方向への距離で表せる5次元時空が存在すること」を論理的に証明したらしい。私たちの宇宙は5次元宇宙の中に存在する膜のようなもので、5次元宇宙には別の宇宙がいくつも存在し、生命体が文明を構築している可能性もあると言います。門外漢の私には理解不能ですが、小さい頃にタイムマシーンの存在の可否を考えた身にとってはワクワクするニュースです。 1次元の生物には直線しか存在しませんから、1本道の途中に障害物があれば、そこが「この世の果て」です。しかし、そこに2次元の生物がやってきたとします。彼は「広さ」を持っていますから、たやすく迂回して向こう側の世界へと行き着くことができます。1次元の生物の目には、突然やって来た2次元の生物が突然消えたかと思うと、次の瞬間、向こうの世界に現れ悠々と去っていく姿が見えることでしょう。 もしかしてビジネスの世界でも同じ現象が起こっているのではないでしょうか。私はそれを「闇夜にクレバスを跳ぶ」と表現しています。前進する行く手に幅がどれほどあるか分からないクレバスがあれば、ほとんどの人が引き返してしまいます。とても怖くて跳べません。しかし、成功した経営者はどこかで…もしかしたら何度も…跳んできたのです。もちろん、向こう岸に届かなくてクレバスの底に落ちた人は大勢います。飛行機の発明の例で言えば、ライト兄弟以前に屍となった多くの「名も無き挑戦者」がいたことを疑うことはできません。そうした犠牲の上に現在の「便利さ」はあります。 日本経済が拡大発展の時代はクレバスを跳ばなくても良かったかもしれません。「こちら側」が広がり続けたからです。しかし、縮小均衡時代に入った市場では、ぐずぐずしていると今の立ち位置さえ危うくなってきます。「跳ぶリスク」よりも「跳ばないリスク」の方が大きくなっているのです。しかし、多くの塾経営者がクレバスを前にして足がすくんでいます。 小さな例を挙げましょう。 個人面談だけでなく保護者全員を集めた「教育セミナー」を提案すると、多くの塾長が躊躇します。「セミナーをやっても5人程度しか集まらないかもしれない。」というのがその理由です。
有体(ありてい)に言えば「失敗したらどうする!」と言うわけです。これが「足がすくんでクレバスが跳べない」状態です。セミナーに限らず、スポーツ大会、クリスマス界などのイベントの成否を参加者数で測る人がほとんどですが、それは間違いです。たとえセミナーに100人を集めても、つまらない内容しか提供できなければ、悪評を100倍速く広めるだけです。(以前お話したセカンド・インパクトの問題です。)たとえ参加者が一人でも、その一人を感動させるセミナーを実施することができれば、その評判は地域へと伝わっていくものです。クレバスを跳べない塾は、そのチャンスを永遠に失っています。
あなたはいい人?できる人?
これはマーケティングではなく、社員研修の講師として招かれたときに話すことですが、「教育」を生業(なりわい)としている人は「いい人」が多いものです。しかし、いい人だけで終わっていると、ビジネスとして社会に貢献することはできません。あなたも「人柄が良く優しいけれど、手術をさせると10回に3回は失敗する医者」に我が子の心臓手術を任せることはないでしょう。「腕前を自慢し、高慢ちきで鼻持ちならず、リベートまで要求するが絶対に失敗しない天才医師」を選択するはずです。そう、大前提として「いい人」ではなく「できる人」にならなければなりません。(けっして「いい人」を否定しているわけではありません。)
ところが、多くの塾経営者が「いい人」であり、世間から「いい人」と思われたいと願っています。例えば、授業料の値上げができない塾はその典型です。「この地区は不況が解消されていないから。」「今の塾生の家庭のことを考えると、値上げをすると塾に来られなくなる子供が出てくるから。」等々、様々な理由を挙げて五年も十年も値上げに踏み切れない塾が数多くあります。結局、「いい人」と思われたいのです。基本的に人は値下げをすれば礼儀としてお礼を言い、値上げをすれば礼儀として文句を言うものです。
あなたの扱っている商品が「カローラ」ならば話は分かります。消費者はどこのディーラーで購入しても同じ商品を入手できます。戦略的に値下げをすることも充分に考えられます。しかし、塾は違います。全ての塾が違う商品を提供しています。その価格を決めることができるのは塾経営者しかいないのです。けっして、トヨタ本社が標準小売価格を決めてはくれません。
また、ここにはもう一つ、大きな問題を孕(はら)んでいます。十年も値上げをしないということは、十年前から何の進歩・進化もしていない商品を提供していると宣言しているようなものです。あなたの塾は十年前と変わらぬ指導レベルですか?そんなことはないはずです。指導技術、カリキュラム、教材、講師…格段とレベルアップしていることでしょう。「教育」は他業種とは違い、コストの削減が難しい業種です。その部分は本来、価格に反映されるべきなのですが、塾長の献身的な犠牲によって吸収されているのが現状です。以前もお話しましたが、多くの中小・個人塾の経営者が自らの休みを削って対応しています。年間休日が五十日以下という人もざらにいます。
いい人は「いい人を演じる傾向」が強いのです。
ここでも一度、クレバスを跳んでみてはいかがでしょう。「いい人」から「できる人」へシフトチェンジするのです。「先生の塾は高い。でも先生のところでお世話になりたい。」と言ってもらえる塾を目指すのです。
ある塾経営者から聞いた話です。春の保護者会で「カリキュラムの変更に伴い、授業料を値上げすること」を宣言したところ、あるお母さんが帰り際に言ったそうです。「そんなに値上げされたら、父親の小遣いを減らさなあかんね。困ったわ~。来月から下の子もお願いします。」
本当のクレバスは胸の内にある
「できる人」を補足すれば、それは「変化ができる人」のことです。ダーウィンは「種の起源」の中で言っています。「生き残ったのは最も強い者ではなく、最も変化に対応した者だ。」世の中は日々変化をしています。ドッグイヤー、マウスイヤーという言葉があるように、そのスピードは年々速くなっています。塾業界も例外ではありません。その速さを上回る変化をすることが、あなたの塾が生き残り、勝ち残る最大の条件です。先月号で「来春に向けた戦略構築を今から始めましょう」という提案をしましたが、その理由がここにあります。 誰もが変化をすることは辛いものです。できれば今のまま過ごしたい。しかし、それはあまりにもリスクが大きいことを知ってください。よく自己啓発の書物に出てくる例えですが、熱湯にカエルを放り込むとビックリして飛び出すが、水から徐々に熱していくと気付かずに「ゆでガエル」になってしまうそうです。(あまり気持ちの良い例えでなくてごめんなさい。)変化をしないということは、ゆでガエルの道を行くことです。 クレバスを跳びましょう。大丈夫です。跳んでみれば、実際のクレバスの幅は案外狭いものです。本当に超え難いクレバスは、あなたの目の前にあるのではなく、あなたの胸の内にあります。
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