この記事は塾生獲得実践会の森智勝氏のご厚意により、全国学習塾援護会のHPから転載したものです。
新年度、各塾にとっては事実上の1年の始まりですね。激動の2008年を勝ち抜く戦いのスタートです。全ての塾が、より良い学習環境の実現のために健全な競争に邁進されることを期待します。
私は今年の課題としてリーダーシップの重要性を訴えています。特に、中小・個人塾にとっては重要なテーマです。なぜなら、リーダーシップを発揮できない塾は、今後支持され続けることは難しいと考えるからです。今回は中小塾のリーダーシップについてお話します。
補習塾が不振の理由
戦後、塾業界が発展してきた背景として総中流社会の構築が挙げられます。そうした社会の実現のため、また、その社会で確実な幸福を掴むためには、常に平均値付近に存在することが必要です。子供たちは保護者から言われます。「学年でトップになれとは言わないけれど、せめて平均点くらいは取ってね。」こうした要請に応えるように、多くの塾が補習塾を標榜してきました。また、塾につきまとう非難の声に反論するかのように、塾自らも「学校授業の補完機能」を積極的に主張してきたのも事実です。つまり、「必要悪」という社会的非難を浴びながらも、そうした両者(家庭・塾)の思惑が一致する微妙な関係の中で塾業界は発展してきたのです。
日本社会が総中流社会を堅固に守っていた時代は、子供を持つ家庭の所得レベルも欧米に比べて高く、子供に習字、そろばん、スイミング、ピアノ…学習塾に通わせる金銭的余裕がありました。ところが、経済摩擦の問題が表面化し、日本がグローバル化の波に飲まれ始めるのと機を一にして、教育の分野でも「ゆとり教育」が推進されるようになり、一気に格差社会(私の言う『2対8の法則社会』)へと移り、その影響は「教育の格差問題」にまで発展しようとしています。
教育意識の高い家庭は、今の公教育のレベルに危機感を持ち私教育への依存度を高めます。首都圏をはじめとする私立中学の入試ブームと進学塾の隆盛はそれが原因です。そうした層は、補習塾に対するニーズを持つことはありません。一方で、学校から提示される絶対評価の数字に安心する家庭は、やはり補習塾に対するニーズが低下していきます。特に小学生は、ほとんどの子供が3段階評価の真ん中以上の評定をもらってくるので、小学生部門の補習塾は全国的に壊滅状態です。また、子供の選択肢も以前に比べてはるかに拡がりました。かつては頑張って平均点付近に位置していれば「標準的な幸せ」が約束されていたのですが、「2対8の法則社会」では上位2割に入ることが求められます。すると、勉強の分野では無理でも、例えば「藍ちゃん」や「ハニカミ王子」のようにゴルフなら、あるいは「ミキティ」や「真央ちゃん」のようにスケートなら…と、考える家庭が増えてきます。勉強に対する価値観が相対的に低下するのは当然です。得点の分布図は、平均点を中心とした左右対称の山になるのが普通でしたが、最近は上位と下位に2つの山を持つ分布図になることも珍しくありません。成績の2極化が始まっているのです。
つまり、様々な理由は挙げられますが、結論として「学校教育に方針を依存している補習塾」が市場から支持されなくなっているのです。
リーダーシップが必要な理由
多様な価値観が叛乱する社会では、多くの選択肢が眼前に並びます。選択肢が増えるということは歓迎すべきことですが、問題は、実際のところ「どれが最も自分に相応しいのか」が分からないことです。なぜなら、人はほとんどの分野について素人だからです。あなたも、量販店に大量に並ぶ薄型テレビの違いを説明することはできないでしょう。「我が家に最も相応しい1台はコレだ!」と選択できないのが本音のはずです。
保護者の多くは教育の素人です。これまでは学校教育に依存し、それに準じた補習塾に頼っていれば大きな間違いはありませんでした。ところが、学校教育に不信感、不満を持った瞬間、わが子に必要な教育について「自己責任」という重い刃を突きつけられる事態に陥ってしまったのです。そうした家庭に対して、「様々なコースがあります。お子様に最も相応しい教育をご自由にお選び下さい。」と言うのは、親切なようで、その実、最も敬遠される態度です。今こそ塾は、「これこそあなたのお子さんにとって最も必要な教育です」と提示してあげなければならないのです。私が主張している塾のリーダーシップです。
当然、全ての子供に相応しい学習などは存在しません。セグメントの重要性は言うまでもありません。市場の2割の人に「ああ、あの塾が私に(我が子に)最も相応しい塾だ」と思ってもらうことです。そうしたメッセージを伝えることが、これからの中小塾には必須です。
もともとリーダーシップとは、一定の組織のモチベーションを、ある方向へと引っ張り上げる力のことです。人は上り坂よりも下り坂を好む生き物です。また、人を下方へ落とすのは容易ですが、上方へ引っ張り上げるには大きな力を必要とします。つまり、並大抵のリーダーシップではダメなのです。当然、リーダーには大きな困難と苦痛が伴います。しかし、その困難と苦痛を受け入れなければ、これからの塾業界を勝ち抜くことはできません。
今、補習塾が不振なのは、ニーズが低下していると同時に、提供している学習サービスに対してリーダーシップが感じられないのが原因です。
信念と覚悟を持て!
家庭は教育混迷の中にいます。そこにあなたが一筋の光の道を提示してあげて下さい。あなたの信じる教育の姿を提示してあげて下さい。もちろん、教育の成果は明日、明後日に出るものではありません。1年後、3年後…いや、何十年後でなければ検証できないのかもしれません。でも、だからこそ信念を持って主張し、覚悟を持って取り組む姿勢が必要なのです。そう、あなたに必要なのは「信念」と「覚悟」です。 大手進学塾は、良くも悪くも、その主張がハッキリしています。もともと公立学校とは一線を画した学習指導を提供してきたことが、今、一定の信頼と支持を得ていることにつながっています。実は、中小塾こそ独自の理念、方針を掲げ、地域の教育をリードするに適した環境を備えているはずです。価値観多様化の時代はチャンスでもあります。 本誌でお馴染みの小林弘典氏(PS・コンサルティング・システム)が主張しているように、これからの塾業界を勝ち抜く鍵は「圧倒的な量」か「圧倒的な質」を実現させることです。大手塾では真似のできない「圧倒的な質」を提供してください。2割の家庭から「そう、それが必要ですよね。」「こんな塾を望んでいたのです。」と言ってもらえるような。 繰り返します。社会は圧倒的なリーダーシップを求めています。あなたのリーダーシップが「あなたの塾」を発展させる大きな鍵です。