この記事は塾生獲得実践会の森智勝氏のご厚意により、全国学習塾援護会のHPから転載したものです。
塾は典型的な労働集約型の産業だと言われています。確かに、提供すべき「品物」がない塾では「人」が商品の大部分を占めていると言っても過言ではありません。当然、人に対する投資が重要になってくるのですが、多くの塾でその点が心もとない印象がぬぐえません。今年も多くの塾人が誕生しましたが、その多くは研修らしい研修も受けずに現場に立っています。マーケティングとは少し離れますが、今回は「人の成長」について考えたいと思います。以前にお話したことがあるのですが、いくらマーケティングを工夫しても、商品力が劣っていたのでは逆効果です。多くの見込み客を集めれば集めるだけ不評を拡げる結果に終わってしまいます。マーケティングは確かな商品力の上に威力を発揮するものです。
研修は人を成長させるためにある
塾内研修の目的は2つあります。業務に必要な具体的スキルを習得することと、人間的成長を促すことです。電話の応対や声の出し方、名刺の渡し方などは前者です。板書の仕方や授業スケジュールの立て方なども同じ部類に入るでしょう。これらは「形式知」ですから、誰でも練習を重ねることによって習得が可能です。しかし、それだけで圧倒的な支持を得る講師は作ることができません。問題は後者です。信頼感とか安心感とか…具体的に表現できない人間的魅力を身に付けた講師を育てるのは本当に難しいことです。理由は2つです。
まず、「人は人を変えることができない」という原則があるからです。「馬を水辺に連れてくることはできるが、飲ませることはできない」という例えがよく使われますが、人材育成にもあてはまります。残念ですが、人は人を変える力を持っていません。ところが、自ら変わろうと決断すれば、一瞬で変わることができます。どれだけ奥さんに言われても辞められなかったタバコを、何かをきっかけにしてスパッと辞めてしまった人が数多く存在します。つまり、必要なのはその「何か」、変わるきっかけを数多く提供することです。研修とは、自ら変わろう、成長しようと思う機会を提供する場でなければならないのです。
もう一つの理由は「沸点の法則」です。我々は水が百度で沸騰することを知っていますから、経験上、目の前のやかんがいつ頃沸騰するか予測がつきます。人は予測できる時間を待つことができます。ディズニーランドで長蛇の列に我慢して並ぶことができるのも、ところどころに掲示されている「ここから六十分」という表示がほぼ正確だからです。ところが、信号の故障で止まった電車がいつ再発車するか分からないとき、人はその60分を冷静に待てなくなります。
人の成長は研修等の訓練行為と比例して伸びるわけではありません。もともと人の「能力」は全てそうです。毎日百メートルダッシュを十本繰り返したとしても、毎日少しずつ記録が伸びることはありません。頑張っても頑張っても結果が出ない時期を経て、ある時、突然記録が伸び始めるのです。その地点をブレイクポイントと言います。問題は、このブレイクポイントがいつ訪れるか、誰にもわからない点にあります。そうすると人は待てなくなり、途中でドロップアウト…諦めてしまうのです。この諦めは研修を施す側、経営者にも見られる現象です。「この講師はどれだけ研修をしても成長しない」そう考えて育成を諦めてしまうのはもったいないことです。
以上の2点が魅力的な講師を作ることが難しい理由です。そこで、多くの塾が即戦力に頼り、講師経験者を中途採用することで人員を補っているのが現状です。しかし、自塾内に講師自らが成長するシステム(自ら変わるきっかけを提供する機会)を持たない塾は、独自の風土や文化を作れませんし、何より地域に強烈に支持される「塾の特長」を作ることができません。繰り返しますが、塾は典型的な労働集約型産業であり、「人」が最大最高の「商品」だからです。
育成をする側(経営者)が諦めず、根気よく研修を続ける必要性を再確認して下さい。ここに掛かる費用は経費ではなく投資です。
こうした話をすると、個人塾さんは「自分には関係ない」と思われがちですが、とんでもないことです。最も投資が必要で、最も成長しなければならないのは、言うまでもなく経営者です。「企業は経営者の器以上には大きくならない」と言われますが、個人塾、中小塾は文字通り経営者の力量が全てです。誰も指摘してくれる人がいないからこそ自戒して、自らのスキルアップ、成長に投資をしなければなりません。「指導技術では大手塾の若手講師には負けません」と言いながら、十年変わらずの指導法で惰性に陥った指導を続けている個人塾が存在しているのも事実です。(もちろん、月刊「私塾界」を購読されている勉強熱心な「あなた」は違うと思いますが。)常に外部との交流を心掛け、情報の収集を怠らず、より高いレベルを求めて自らの成長を促進させなければなりません。
商品力はすべての前提条件
今、大手塾の合従連衡が賑やかに喧伝されていますが、実はそれ以上に個人塾・中小塾の二極化が進んでいます。個人塾は経営者の性格が色濃く反映しますから、地域でカリスマ的な存在として支持されている個人塾は、大手塾の進出等の市場の変化に左右されることなく圧倒的な支持を受けています。そうした塾の経営者は、例外なく自らの成長に積極的です。個人塾・中小塾二極化の分岐点は、まさに経営者の自己研修にあるのです。 一時期の戦略ブームにより、マーケティングは魔法の杖のように思われました。しかし、それは諸刃の剣でもあります。マーケティングは商品の良さを早く正確に市場に届ける車のようなものです。乗せている商品が本物でなければ、悪い評判を早く正確に届ける結果を招くことは自明の理です。 今一度、塾内の研修体制を見直してください。それは、自塾の商品力をアップさせる作業に他なりません。その不断の取り組みがあれば、この「中小塾のためのマーケティング講座」でお伝えしてきた様々なノウハウがいっそう威力を発揮することでしょう。また、昨今問題になっている若手社員の早期退社の防止にもつながります。人は「自らを成長させる条件のあるところ」からは、けっして離れようとしないものです。
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