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  • 執筆者の写真森智勝

中小塾のためのマーケティング講座59 〇〇至上主義症候群に陥るな!

この記事は塾生獲得実践会の森智勝氏のご厚意により、全国学習塾援護会のHPから転載したものです。


私はセミナー等で「ありがとう」のススメをしています。コンビニで缶コーヒーを買うときも、アルバイトの店員さんに「ありがとう」を言いましょうと。それはコミュニケーションの基本だからです。 先日、懇意にしている塾経営者A氏と話をしているときに、その話題になりました。

「ところで、森先生。私も意識して『ありがとう』を言うようにしているのですが、最近、何か形式的に思えてきて…心がこもっていないように思えるのです。」

素晴らしい気付きです。私はそれを「ありがとう至上主義症候群」と名付けています。いえ、言わないよりは言った方がはるかに良いことは間違いありません。ただ、その一言を言うことが免罪符のようになり、全てが許される、全てが好転するとの思い込みが怖いのです。

世の中には、この「〇〇至上主義」が蔓延しているので、気をつけないと無意識のうちに症候群に罹(かか)ってしまいます。そして、今、経営者が最も注意しなければならないのが「マーケティング至上主義症候群」です。

本誌上で「中小塾のためのマーケティング講座」を執筆している立場から言うと自己否定になってしまいますが、自戒を込めてお話します。

商品とマーケティングは車の両輪

マーケティングとは商品の良さ(便利さ、有効性等)を早く正確に市場に届ける車のようなものです。そして、戦略と戦術が車の両輪です。重要度は戦略が8で戦術が2なのですが、ここで注意が必要です。戦略もなく戦術ばかりに取り組んでいると、生じる成果は2になりますが、戦略ばかりに傾倒して戦術を無視すると成果は0になってしまいます。戦略ブームが席巻したときに指摘したことがあるのですが、多くの経営者が「戦略至上主義症候群」に罹っています。あくまでも両輪ですから、戦略と戦術は等しく重要です。 走る車を立派に作ったとしても、乗せている「商品」が偽物ならば、悪い評判を「早く」「広範囲に」拡げる結果しか生みません。ここでも「商品力」と「マーケティング」はビジネスにおける車の両輪なのです。 何か、チラシの作り方を変えれば塾生がどっと増えて「薔薇色の塾経営が待っている」かのような思い込みが怖いのです。もちろん、チラシ・ホームページ・入塾案内は塾の器であり、魅力的に作る必要があります。また、それらを考えることは中身を考えることにつながります。それは確かです。けっして手を抜いてはいけません。

ところが、「マーケティング至上主義症候群」に罹ると、中身(商品)を考えずに、器の色や形だけで買ってもらおうとし始めます。とあるノウハウ本を参考にして、「赤色」に変えて効果がない。「青色」に変えても効果がない。四角にしても…三角にしても…「ええい、何の効果もないじゃないか、コイツの言っているマーケティング手法は嘘っぱちだ~!」と文句をぶちまけるだけで終わります。これが怖い。

コーチングを学べば「コーチング至上主義」に陥ります。確かに、コーチングは優れたメソッドです。しかし、コーチングを学ばなくても圧倒的な集客をしている塾はありますし、全面的に導入しても全く効果のない塾もあります。○○さえ導入すれば全てが好転するという思い込み、これが「○○至上主義症候群」です。どんな素晴らしいメソッド、スキル、商品でも、常に批判的に考える側面を持つことが、その○○を最も効果的に生かすコツです。

相も変わらず、巷(ちまた)では「苦労せずに年収○○万円」を謳う情報が氾濫しています。それを数万円から数十万円で売るビジネスも横行しています。それらは「幸せを呼ぶ黄色い財布」と同程度のものです。私も、かつては症候群に罹ったひとりです。CAIを次々導入しては「役に立たない!」と次々捨てていました。その失敗から暗黙知と形式知の違いや重要性を学びました。

やはり、本質を究めることが重要です。

「ありがとう」という言葉が感謝の気持ちを伝える手段であるように、導入する○○は何かを成すための手段にしか過ぎません。そこを見失うと、全ては単なる「子供の玩具(おもちゃ)」になってしまいます。

本質を学び不断の努力を

経営が上手くいかないと、何かに頼りたくなるのも分かります。かつて、私が手伝っていた便利屋チェーンの社長もそうでした。次々と商材を見つけてきては「森君、これは正に起死回生の商品だよ!」と、嬉々としていました。しかし、結果は…。

最後はギリギリの選択として便利屋を始め、それをFC化することで成功を収めました。最も泥臭く、かっこ悪く、辛い作業の中に光明を見付けたのです。彼の凄みは、底辺の仕事と他人から思われ、地に落ちたなと嘲笑されながらも、前向きな意欲(エネルギー)を失わずにいたことです。


つまり、彼から学ぶべきことは「便利屋」というビジネス・モデル(形式知)ではなく、不屈のエネルギーという暗黙知の在り方です。彼はブレイク・ポイントを迎えるまでの長く、辛い時期を諦めることなく努力し続けました。だから、ブレイク・ポイントを得ることができた。それが本質です。


多くの人は「彼は運が良かった。偶然だよ。たまたま不景気と便利屋の相性がマッチしただけさ」と評価し、その本質を見ません。そして、相変わらず魔法の杖を求めて人生を彷徨(さまよ)っています。彼等は「魔法の杖至上主義症候群」です。少なくとも、人を対象としたビジネスである塾に「魔法の杖」は存在しません。「これを導入すれば全てが好転する」などというものは。 4月に、ある大手塾が設立した学校の開校式に招かれて行って来ました。理事長が挨拶の中で言っていました。「私の塾は、最初は先生一人、生徒一人から始まりました。それが私の原点です。」 そう、最初から大手だった塾など存在しません。また、いきなり大手塾に変身させる「魔法の杖」も存在しません。ブレイク・ポイントを迎えるまでの長く厳しい時間を受け止める覚悟があるかどうかです。いつ、ブレイク・ポイントが訪れるかは誰にも分かりませんが、それは誰にでも必ずやってきます。 常に商品力を向上させ、それを市場に伝えるマーケティングを工夫する…不断の取り組みが重要です。商品が本物ならば、私の拙(つたな)いマーケティング論も多少は力を発揮するはずです。 偉大なる先人は数々の至言を残しています。私が最も感銘を受けた言葉を紹介します。

この世に失敗など無い。 あるとすれば、成功する前に諦めてしまうことだ。 それは、人生最大の失敗である。

あなたの不断の努力を期待します。

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