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執筆者の写真森智勝

中小塾のためのマーケティング講座62 オリンピックの感動に学ぶ!

この記事は塾生獲得実践会の森智勝氏のご厚意により、全国学習塾援護会のHPから転載したものです。

2008年10月私塾界掲載分


今年は北京オリンピックが開催され、多くの感動が生まれました。また、夏の甲子園大会は決勝戦には5万人近い観衆が集まり、根強い人気を保っていることが証明されました。 中学まで四国の野球小僧をしていた私にとって、甲子園には特別な思いがあります。当時、一緒に汗を流した仲間の多くが晴れ舞台で活躍する様子をブラウン管越しに羨望と少なからぬ嫉妬を交えた複雑な思いで見ていたものです。あれから30年経った今でも甲子園は憧れです。 普段、野球に興味がなくても、高校野球には感動する方が多いのはなぜでしょう。ここに「感情の論理」の基本があります。塾のマーケティングを考えるときの基本に関わる重要なテーマについて今回はお話します。

オリンピックに見る感動のメカニズム

人は素質に感心はしても感動はしません。確かに北島康介選手には元々水泳の素質があったことは否定しません。しかし、我々が彼に感動するのは、そのわずか1分足らずの泳ぎの中から透けて見えてくるものがあるからです。それは、100分の1秒を縮めるために彼が行ってきた気の遠くなるような努力の日々です。実際に確かめたことはなくても、我々には到底真似のできない厳しい訓練を続けてきたであろうことは、事前のマスコミ報道等で「実感」として分かるのです。2大会連続で2種目金メダルという偉業そのものも凄いのですが、感動の源は、そうした表面上の「結果」に存在するのではありません。例えば、フェンシングの太田選手が日本人史上初のメダル獲得という快挙を成し遂げましたが、そのことに「感動」はしなかったはずです。それは、それまで太田選手が過ごしてきた「努力の日々」が知られていないからです。 そう、人は「人が成長するために本気で取り組んでいる姿」に感動するのです。本来、何倍もの努力をしているはずのプロ野球より高校野球に感動するのは、その「姿」が見えやすいのが原因です。高校球児は勝っても負けても涙を流し、その姿を隠そうとはしません。それを見て人は3年間の努力の日々を「実感」するのです。毎日試合のあるプロ野球は、毎試合泣くことはありません。ある意味、淡々とした姿を見せています。その違いが「感動」の差に現れているのです。 そこに気付けば、塾経営者がマーケティング(経営戦略)を考えるときの重要な切り口が分かります。塾生はもちろん、経営者たる「あなた」をはじめとするスタッフ全員が、塾人として成長するために本気で取り組んでいる姿を見せること、伝えることです。そこに感動が生まれます。感動すれば、人は動きます。 シドニーオリンピックの女子マラソンで優勝した高橋尚子選手は、レース前の抱負で「見ている人が思わず走りたくなるレースをしたい」と述べましたが、実際に「走り出した人」が何万人もいたのです。前述の例で言えば、今回のオリンピックを契機にフェンシングを始める人よりも水泳を始める人の方が圧倒的に多いことは間違いありません。

感動を伝えるには具体的な形に表す

では、どうすれば「感動」を伝えられるか。一つの具体的な事例を挙げます。これは実践会の会員であるA塾さんが実際に実践して抜群の効果をあげている方法です。 最近は塾紹介のDVDを作成している塾が増えてきましたが、A塾さんは夏期講習の様子を撮影し、ドキュメント風に編集したDVDを作って参加者のご家庭に配っています。効果音も使い、「プロジェクトX」風の作りです。映像には塾生と講師が一緒になって戦っている姿が映し出されます。ここまででも凄いのですが…秀逸なのはエンドロールです。映画のようにエンドロールを付け、そこに「出演者」として塾生全員の名前が流れてくるのです。これは「ワン・ツー・ワン・マーケティング」の手法なのですが、我が子の、孫の名前を見つけたときのご家族の大きな感動が想像されます。その瞬間、単なる紹介促進ツールが「ひと夏の思い出を刻みつけた一生の宝物」に変わります。 いつも言っていることですが、何事もスローガンで終わらせていてはダメです。「形」にすることです。1つずつ「形」に落とし込むことで初めて「あなたの思い」は相手に届くのです。 私は以前から保護者や塾生を一同に集めた「教育説明会(セミナー)」の開催をおススメしています。同じことがその理由のひとつに挙げられます。「あなた」が、スタッフが、塾が成長しようと努力している姿を実際に見せることが重要なのです。 確かに、我々は高校野球ではなくプロ野球をしています。毎日、大きな感動の場面を作ることはできません。しかし、「ここぞ」というときの「日本シリーズ」は必要なのです。 感動を伝えること(創造すること)がマーケティングの基本と分かれば、他にも様々な具体的アイディアが浮かんでくるはずです。「あなた」自ら「私の塾はこんなに素晴らしいですよ」と百回強調するよりも、たった一人の塾生に「この塾に入って良かった」と言ってもらうことの方が有効です。そのために、多くの塾は様々な機会を捉えて感想文を書いてもらい、それをマーケティングに利用しています。ネット販売で抜群の売上をあげている商品は、例外なく「購入者の賛辞」が「これでもか!」と並んでいるものです。以前、私がチラシのキャッチコピーの例として「○○先生に会えて良かった!」という提案をしたのも同じ効果を狙ったものです。本当に素晴らしい「商品」ならば、その良さを売り手が強調するよりも「客の声」として伝えた方が圧倒的に優位です。感動が伝わるのです。 以前、ご紹介した「英雄伝説」も理屈は一緒です。掲示板に張られた自分の(我が子の)「英雄認定証」を見て感動しない人はいないと思います。

*英雄伝説…塾生の様々な活躍を勉強に関することだけに限らず、塾として表彰する制度。成績上位者や部活での入賞、作文コンクールから運動会の徒競走まで、塾生の小さな業績も認め、顕彰することで行動意欲を促します。それは塾の活性化と口コミ効果を圧倒的に高めます。

どうすれば塾生を、保護者を感動させることができるかと考えている人は「アンテナ」が立っていますので、様々な情報をキャッチすることが可能になり、様々なアイディアが浮かんでくることになります。 職人気質の経営者の中には、そうした手法を「潔しとしない」と考える方もいらっしゃるでしょう。しかし、より良い物を広く知らしめて一人でも多くの方に利用してもらうことがビジネスとしての社会貢献の王道です。そのために「感動を伝えるマーケティング」を工夫しましょうとおススメしているのです。 大手塾が合格者の一覧を発表し、喜びの声をチラシ等で伝えるのは、実績を強調すると共に合格者とその家族の思いを伝えることによって、感動の疑似体験を見込み客に提供しているのです。 「あなた」は、どんな方法で感動を創造し、それを伝えますか?それを考えることから「あなたのマーケティング法」が確立されてくるはずです。

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