この記事は塾生獲得実践会の森智勝氏のご厚意により、全国学習塾援護会のHPから転載したものです。
2009年1月私塾界掲載分
明けましておめでとうございます。とは言え、塾業界ではこれからが入試本番、そして、春期募集と嵐のような多忙期に突入します。中にはゴールデン・ウィークまで休みなく働く人もいます。お体を大切にお過ごし下さい。今回は年頭にあたり、塾の体質強化についてお話したいと思います。忙しさの中で忘れてしまいがちなことです。今年の自塾発展のために重要なテーマです。
塾内民主主義を確立する
海の向こう、アメリカでは新しい大統領が決まりました。サブ・プライム・ローン問題で世界の金融市場が大混乱したままの年越しですが、発生源のアメリカでは「チェンジ」を選択しました。これが世界の実体経済にどう波及するかは専門家に任せるとして、私が注目したのは「民主主義」の在り方です。次の記事は大統領選挙翌日のニュースです。
(CNN)米大統領選の共和党候補、ジョン・マケイン上院議員は4日夜、民主党のバラク・オバマ上院議員の勝利を認め、地元アリゾナ州の州都フェニックスで支持者らを前に演説した。
マケイン氏はオバマ氏の当選確実が報じられた直後に、電話でオバマ氏に祝福の言葉を伝えたことを報告、「厳しい戦いを勝ち抜いたオバマ氏に敬意を表したい」と語った。
同氏はオバマ氏がアフリカ系米国人として初の大統領に選ばれたことに言及し、「米国は常に、努力する人に機会を与える国だ」と強調。また、投票日を目前にして亡くなったオバマ氏の祖母に弔意を示した。
そのうえで「意見の相違はあっても、愛する国を率いるオバマ氏に協力したい」「同じ米国人として団結しよう」と、支持者らに語りかけた。
マケイン氏が「残念な気持ちがあることは確かだが、失敗したのは私で、皆さんではない」と話すと、会場からは大きな拍手が上がった。同氏はまた、支持者やボランティア、副大統領候補のペイリン・アラスカ州知事に感謝の言葉を贈り、「家族には負担をかけた。これからは静かな時間を過ごしてもらいたい」とほほ笑んだ。「大統領候補として戦ったことを後悔はしない。私の意見に耳を傾けてくれた国民の皆さんに感謝する―たとえその結果、オバマ氏を選んだとしても」と語ると支持者からブーイングの声が上がりかけたが、マケイン氏はそれを制するように「この国に尽くすことが私の喜び」と述べ、「米国は決して負けない。われわれが歴史を作るのだ」と宣言して演説を結んだ。
ここに本当の意味での民主主義を見ます。決まるまでは激しいネガティブキャンペーンを含め、喧々諤々の論争をするが、決まれば全員がそれに従う…この姿勢は見習いたいですね。我々は往々にして決めるときに何も発言せず、決まってから陰で文句を言ったりします。(自戒を込めて。)塾内の意思決定方法もこうあるべきです。1つのテーマについてスタッフが自由闊達に意見を述べることができ、決定したことには全員が従う風土を作りたいものです。ただ、決定方法について、「多数決」は日本人には馴染みません。最後はトップである「あなた」が決断すべきです。それが本来あるべき「トップ・ダウン」の姿です。多くの企業が「トップ・ダウン」の意味を間違えています。経営者が全てを決定した後でスタッフに命じることと考えています。これではスタッフのモチベーションは上がりませんし、何より、スタッフの発想力を最大限生かすことが出来ません。
本来、マネジメントとは持てる戦力を100%発揮させるための仕組み作りのことです。その一つに以前紹介した「ミーティングの進め方」があります。ミーティングが「会議」ではなく「報告会」、あるいは経営者の「独演会」になっていないでしょうか。それではスタッフの能力を充分に引き出すことは出来ません。
塾の成長は「人」の成長から
企業として、塾として常に成長することは大切です。人は「人が成長しようと努力している姿」に感動し、共鳴するものです。塾のように労働集約型のビジネスでは「人の成長」は企業成長のために不可欠です。すでに内定者研修は着々と進めていることとは思いますが、本採用時を挟んだこれからの半年間は最も重要です。また、本誌にコラムを掲載している小林由香先生が指摘されているように、既存スタッフに対する研修も同時並行で進めなければ効果は薄くなります。いくら新人に研修を重ねても、先輩社員が実践していないことを守り続ける新人はいません。 研修と言うと、(社会人としての一般常識はもちろんとして)授業の進め方や保護者との接し方等、技術論に終始してしまう傾向があります。学校の教師のように、「教えること」だけが仕事ならば問題ありません。しかし、塾人は「教えることも仕事」のビジネスです。いかに生徒・保護者から信頼を得、求められる魅力的な人物になっていくか…前述の「常に成長を求めて努力する人」になっていくための研修が不可欠です。その仕組みがない企業では新入社員の五月病と縁を切ることができません。 ところで、「本当の意味での成長」を語るのは難しい。人によって「成長」の定義は違います。そのため、抽象的な議論に終始し、最後まで共通認識が持てないことになってしまいます。 私は「成長」を「能力の向上」と定義しています。例えば小学生が計算問題を10分で5問解けていたのが6問になれば「成長」です。マラソンで記録が1秒伸びるのも成長です。つまり、数字に換算して考えないと「成長」は計れないし、建設的な議論も出来ません。 そこで、私自身は自分の成長を「読んだ本の数」や「セミナーの回数」で計っています。例えば、12月は10冊の本を読んだから10冊分成長したと考えるのです。何か指標となる「ものさし」を自分で持っていなければ「成長を計ること」は出来ません。そして、その成果は「仕事量」で知ることができます。 私は数年前から地元の異業種交流会で「歴史研究会」の講師を務めています。先月は「万葉集のなぞ」というテーマでお話をしましたが、そのために万葉集関連の本を5冊読みました。そして、2時間で話をまとめるための資料作りと構成、シュミレーションもしています。そうした活動そのものを積み重ねることが「自分の成長」だと考えています。それ自体は「商売」にはなりませんが、与えられた任務?をしっかりとこなすことが信頼感を得、自分を成長させる糧になっていると確信しています。 信頼感は与えられる仕事量で計ることができます。信頼を寄せていない人に仕事を頼むことはありません。仕事が多いということは信頼を得ている証しです。企業内でも、最も能力があり最も信頼されている人が最も多くの仕事を抱えているものです。(ここでは詳しく触れませんが、「作業」ではなく、「仕事」で忙しくなることが信頼の証しです。) 人の能力は、ある程度の「負荷」を掛けないと伸びないものです。「走力」「腕力」「学力」…すべてそうです。楽をして得られる能力など存在しません。つまり、成長には苦痛がつきものなのです。自らの肉体的、精神的苦痛を覚悟する必要があります。社員にとって通常業務以外の「研修」は負担に違いありません。しかし、だからこそ能力が伸びる=成長するのです。そうしたことを社員に伝え、意義を理解させ、塾全体が共通認識の上に立った研修制度を構築してこそ塾の成長と繁栄は実現されます。中小塾にとって最も置き去りにされている分野が「塾内研修制度」です。一人でも社員を抱えているならば、絶対に必要な要素だと心得て下さい。 今回の世界同時不況を見て感じたことがあります。「投資先」として最も有効なのは「人」です。よく分からない株や証券という「紙切れ」に投資するよりも、実体として存在の確かな目の前の社員に投資した方がはるかに確実でリターンも大きいと思うのですが。ましてや「人を育てること」をビジネスとしている塾にとっては…。 理屈は経営者である「あなた」にも当てはまります。経営者としての成長には苦痛が伴います。今、肉体的、精神的苦痛を得ている人は幸いです。「あなた」は確実に成長しています。