この記事は塾生獲得実践会の森智勝氏のご厚意により、全国学習塾援護会のHPから転載したものです。
2009年9月私塾界掲載分
仕事と作業を分けて考える
夏期講習も終わり、いよいよ後期が始まります。2学期は塾の体質を強化するとともに、口コミ・評判を拡げることを念頭に置いた塾運営を心掛ける時期です。これからの活動によって来春の集客が大きく左右されます。 また、来年度の戦略構築も秋までに終了させたいものです。十二月以降は冬期講習~入試本番まで現場での「槍働き」に忙殺されることになります。特に、中小・個人塾では経営者も教壇に立つところがほとんどでしょう。心に余裕のある今の時期に来年度を考える時間を設けて下さい。 塾経営者にとって「仕事」はいくらでもあります。時間がどれだけあっても足りないという方がほとんどでしょう。勢い、優先順位を付けて仕事をこなしていく必要があります。
そこで、仕事を①重要度が高く緊急度も高いもの、②重要度が低く緊急度の高いもの、③重要度が高く緊急度の低いもの、④重要度が低く緊急度も低いものに分けてみます。
誰もが①の「重要度も高く緊急度も高いもの」から手を付けることに異論はないでしょう
では、二番目に手を付けるのは何でしょうか。多くの人が②の「重要度は低いが緊急度が高いもの」を選択する傾向にあります。はたして、それは正しい優先順位でしょうか。
私は以前から「仕事」と「作業」を分けて考えることを提唱しています。誤解を恐れず有体に言えば、「時給八百円のパートのおばちゃん」にでもできることが作業です。そして、「あなたにしかできないこと」が仕事です。時給八百円のパートのおばちゃんでもできることにどれだけ熱心に労力を傾けても、そこから得られる利益は時給八百円です。そこに多くの時間を費やすことには賛成できません。あなたには「あなたにしかできない仕事」があります。②の「重要度が低く緊急度の高いもの」の中の、いわゆる「作業」に時間を取られすぎていないか、一度、検証して下さい。
もしかしたら、そこに時間を取られすぎているがために、③の「重要度が高く緊急度の低いもの」の期限が迫ってきて、自動的に①へと移行しているだけなのかもしれません。
「来年度の戦略構築」は現時点では確実に③のカテゴリーに入ります。ところが、まだ緊急性は低いとノンビリ構えていると、すぐに時間が経過して①へと移行することになります。
それでも、本当に①から取り組んでいるのでしたらまだ良いのですが…。
実は、多くの経営者が②から取り組む傾向にあります。「重要度の高いもの」のほとんどは経営者の決断を必要とするものであり、人は自ら決断することに躊躇(ためら)いを覚えるからです。
「決断」と「判断」の違いは重要です。「どこかに存在する答えを探す行為」が判断です。答えはどこかにあるのですから、判断を他人(専門家)に委ねることは有り得ることです。例えば、経費として会計処理しても良い領収書かどうかを税理士や会計士に尋ねることは日常茶飯事でしょう。
最近では著作権の問題で弁護士を活用する塾も増えていると聞いています。そうした法的なことは、自分では分からなくても、どこかに答えが存在しているのですから専門家に判断を委ねることになります。
ところが「決断」は、どこにもない答えを自らの力で創っていく行為のことです。
「二人の男性に求婚されたとき、どちらと結婚した方が幸せになれるか…」の答えはどこにも存在しません。2つの道を選択することも、選択した道を途中で引き返すことも不可能です。そんな問題について結論を他人に委ねることはできません。自らが「決意」し、長い年月と努力によって選択の正しさを証明していく以外にはありません。
その行為(決意と努力)こそが「決断」なのです。 経営者の決断は重いものです。その重さに耐えられず、決断が出来ない人がいます。そして②の緊急度の高い「作業」へと逃げ込んでいるとしたら…作業に没頭することをエスケープにして決断を先送りにしているとしたら…塾の未来はありません。
来年度の経営戦略を練ることは大きな決断を伴うことです。それゆえ先送りされがちになり、最悪の場合、決断できずに新年度を迎えてしまいます。結局、販社に電話を掛けて「今までと同じワークを持ってきて」と注文することになります。いわゆる前例主義です。これでは進歩も進化も望めません。進歩・進化のない塾は遠からず市場から支持されなくなります。
私は「先送り体質」と「前例主義」は表裏一体のもので、社会の進歩を阻む最大の要因だと考えています。毎月、本誌を購読している勉強熱心な「あなた」は大丈夫だとは思いますが、一度、自らの日常を検証してみて下さい。
マーケティングの基本は一貫性を保つこと
さて、戦略構築は教務分野とマーケティング分野に分けて考えます。教務に関して私は具体的に語る術(すべ)を持っていませんので、マーケティングに関してヒントを提供します。ただ、以前もお伝えしたように、マーケティング的に教務を捉えることは重要です。「商品」が魅力的であることはビジネスの大前提です。いくら優れたマーケティングで見込み客を大量に集めても、商品に力がなければ逆効果です。悪い評判を早く広げる結果が待っています。あなたの塾に通う子供たちが、授業中に何度も時計に視線が行くような状態ではありませんように。気が付いたら終了時間が来ていた…そんな授業(商品)を提供して下さい。
以前から述べていることですが、ビジネスの基本は(言葉は悪いですが)「騙されたと思って買って下さい」とセールスし、騙されて買った人に「ああ、騙されて良かった」と思ってもらうことです。この繰り返しが信頼と信用を生み出します。
どんなに言葉を尽して料理の説明をしても、その本当の美味しさは食べてみなければ分かりません。そこで、スーパーなどでは「試食」のコーナーが誕生します。また、居酒屋では「大将のおススメ」などというメニューが存在することになります。大将に騙されたと思って注文した客が「美味い!」と唸れば、その客は店のファンになることでしょう。その繰り返しの先に「大将にお任せ」があります。あなたにも、そうした馴染みの店があるはずです。
この「騙されたと思って…」の部分がマーケティング(商品の魅力を早く正確に伝える技術)なのですが、人は簡単には騙されてはくれません。重要なことは全体を貫く一貫性を構築することです。
実際にあった例なのですが、ある塾の冬期講習の案内です。
説明文には「冬期講習の目的は入試形式に慣れることです」と書いてあるのに、カリキュラム自体が個別指導の科目選択制になっています。個別指導の科目選択制では「入試形式に慣れること」は無理です。
なぜ、こうしたことが起こるか…行き当たりばったりの小手先で案内(チラシ)を作ってしまうからです。これでは人は騙せません。その胡散臭さ?を本能で嗅ぎ分けてしまいます。
あなたの塾を紹介する全て…チラシ、ホームページ、入塾案内等…に一貫性を持たせてください。そのためには、まず全体像を構築してから部分を作っていく工程が必要です。
その最初の一歩が「企業理念」であり「指導方針」です。それさえ確立できれば、「理念・方針に合うことは全て実行する、合わないことは一切やらない」という行動指針で戦略構築を進めていくことが可能です。 具体的事項については次号以降に解説を続けます。
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