この記事は塾生獲得実践会の森智勝氏のご厚意により、全国学習塾援護会のHPから転載したものです。
2009年10月私塾界掲載分
本音と建て前を明確に両立させる
先月号に続けて戦略構築の話をします。唐突ですが、「あなた」はなぜ塾人になったのでしょうか?理路整然と答えられますか?あらたまって聞かれると、答えに窮する方も多いと思います。その「答え」が先月号でお話した「理念」、あるいは「ミッション」と呼ばれているものです。私は『人は感情で動いて理屈で正当化する』と思っている人間ですので、あまり哲学的に考えるのは苦手ですが、「ミッションって結局のところ建前でしょ?」という感想をお持ちの方もいらっしゃると思いますので、本音と建前について皆さんと考えたいと思います。
結論から言うと「建前でいい」というのが私の考えです。と、言うよりも、この建前をきっちりと演じることが出来る人を「社会人」と呼ぶのだと思っています。社会というのはそれぞれがそれぞれの役割を演じて初めて成立する共同体です。例えば、ホテルマンはどんな客にも丁寧に対応し、心地よい空間と時間を提供することを仕事としています。あの物腰と言葉遣いは、言ってみれば「建前」でしょう。もし、本音で対応していたら、「ああ、今日は体調悪いな。こんな日に笑顔で『いらっしゃいませ』なんて言えるかよ。」とか、「何だ、この客は。偉そうにして。お前の荷物など持ってやるものか。」なんてことになってしまいます。しかし彼らは、そんなことを一切表面に出さず、にこやかに客を迎えます。そして、客である「あなた」も節度と礼儀をわきまえた「客」を演じることで、ホテルマンと快適な空間を共有する構成員を担っているわけです。つまり、「建前」は人が社会人として生きていくために必要なものであり、必須条件です。もし、全ての人が建前を放棄して本音で生きていこうとしたら秩序は崩壊します。だから、「腹を割って話す」とか「本音でぶつかる」という台詞は、それこそ文字通り「建前」であるべきだと考えています。
誤解をしていただきたくないのは、建前だから守らなくてもいいわけではありません。自分が掲げた建前を前述のホテルマンのように、とことん守ることが社会人としての、あるいは大人としての責任だと思うのです。そして、その姿勢を貫いている人に他人(ひと)は魅力や信頼を感じるものです。また、そのミッションを徹底して掲げ続けること、追求し続けることでのみ自己実現は可能になります。ミッションを掲げた、その瞬間にセルフイメージが出来上がり、あなたの中に変化が生まれます。
また、ここで言う理念(ミッション)とはプログラム規定であり、常に追求し続けるべき概念です。簡単に言うと、「あなた」が塾経営を続ける目的です。例えば「地域の子供たちの学力向上を通して子供たちの幸福追求のお手伝いをする」あるいは、「若年層の学力向上に貢献することによって、将来の国づくりに寄与する」等、「あなた」の理想を文章化したものです。もちろん、その裏には「裕福になりたい」「もっと豊かな暮らしがしたい」という個人的願望が隠れていることを否定はしません。しかし、本音と建て前は二律背反のものではなく表裏一体のものです。建て前をとことん追求することで、個人的な願望は実現されていきます。
戦略構築の手順を守る
さて、理念の確立を前提として、戦略構築の全体像は次の順番で考えます。
理念を具現化するための戦術(計画)
戦術の実行
チェック&習性
再実行
マネジメントの世界で言う「PLAN」「DO」「CHECK」「ACTION」、「P-D-C-A」と呼ばれているものです。 これを、経営の7要素、それぞれについて考えていきます。
商品(授業等)
客層(絞込み)
営業(チラシ・DM等)
顧客維持(リピート対策)
組織(社員・アルバイト)
資金対策
時間対策(年間スケジュール等)
ランチェスター経営の竹田氏のウエイト付けによると、1~4までで約八〇%になり、5~7はわずかに二〇%になるそうです。
利益は「お客の手からあなたの手に代金が支払われたときに発生する」わけですから、このウエイト付けは当然です。例を挙げて説明していきましょう。
あなたの理念(ミッション)が「地域の子供たちの学力向上を通して子供たちの幸福追求のお手伝いをすること」だとします。
まず考えなければならないのは、「今の授業は本当に理念に適うものになっているか」という観点からの見直しです。
そのために、まず、商品(授業)を構成する要素を列挙します。例えば「指導技術」「カリキュラム」「教材」等です。それらについて、ひとつひとつ吟味します。当然、中心となるのは指導技術でしょう。
教師(社員、アルバイトの区別無く)の力量向上を常に図る必要があります。定期的な研修、研究会等を計画し(PLAN)、実行し(DO)、検証し(CHECK)、再実行する(ACTION)…ぜひ、このサイクルを実現させてください。
「カリキュラム」「教材」に対するチェックも重要です。何の検証もないまま「昨年と同じ教材」を注文している塾があります。その通年ワークは本当に「あなたの理想のワーク」でしょうか。子供たち、保護者に自信を持って「これで学べば確実に学力が向上する」と言える教材でしょうか。もちろん、自塾作成が理想なのでしょうが、物理的(資金的、人的)無理が生じます。ならば、通年ワークひとつを取っても、戦略的に選ぶべきです。また、何百種類とある教材の中から吟味に吟味を重ねて選んだ教材だからこそ説得力が生まれるものです。スタッフによる「教材選考会議」を定期的に開く計画を立てて下さい。(これもP-D-C-Aのサイクルで動かします。)
また、「授業以外に提供できる商品はないか」という付加価値の探索も必要です。例えば、「子供の幸福追求のため」には進路相談の充実が不可欠かもしれません。現在の進路指導体制も見直してください。実際、その徹底した充実振りが評判を呼び、集客に寄与している塾も数多くあります。
中小塾にとって重要なのが2つめの「客層(絞込み)」です。今まで何度も触れてきたことですが、「どんな生徒でも対応します」と主張する塾は、外から見ると何ができる(何が得意な)塾かが分からなくなります。
ある工務店の話です。
そこは技術力が大変高く、どんな注文にも応える自信がありました。そこで、「何でも出来ます」と言うと、顧客から「そうか、ところで何が出来るんだ?」と聞かれてしまうそうです。
塾も同じです。「何でも出来ます」と主張していると塾の特徴が分からなくなり、人は「分からないところ」には立ち寄らなくなるものです。「当塾は○○な生徒を指導することに自信があります」という主張をすることによって初めて、「○○な生徒」に「ここは自分のための塾だ」と思ってもらえるようになります。
ユニクロが「どんな客層にも対応しよう」と考えて、高級服まで販売することはありません。それどころか、より低価格商品を扱うために別ブランドを立ち上げたくらいです。客層を絞って、その「お客様」にターゲットを絞ったサービスを提供することが「ブランド化」には絶対必要なのです。
おおまかに言って、全体の2割にターゲットを絞るのが理想です。例えば、成績中位の2割に的を置いた戦略を敷けば、前後6割の層が集客対象となるはずです。 「営業」「顧客維持」については次回、説明します。