この記事は塾生獲得実践会の森智勝氏のご厚意により、全国学習塾援護会のHPから転載したものです。
2009年11月私塾界掲載分
「商品」と「客層」についての補足説明
戦略構築方法の後半です。
先月号で「商品」と「客層」についてお話しました。「商品力」はビジネスにおいて最大のコアであることは言うまでもありません。これが魅力的でないと、残りの要素がどれだけ完璧でも上手く行かない。生徒にとって「あなたの塾の授業」や「教師」が魅力的かどうかを慎重に判断してください。
生徒は遅刻せずに通塾していますか?「部活で遅くなって…」と、五分~十分の遅刻を何度も繰り返す生徒はいませんか?保護者から「いつも、『早く家を出ないと遅刻するよ』と追い立てるように塾に行かせています。」という声が多く聞こえだしたら危険信号です。それは、ほとんどの場合、塾に対する魅力を失っている証拠です。
生徒の学習意欲の低さを嘆く前に、そうした生徒すら惹き付ける授業を考える方がよっぽど建設的です。また、授業中に生徒の目線が時計に何度も向くのも注意信号です。明らかに生徒は退屈しています。
以前、授業コンテスト優勝者の模擬授業を私塾界セミナーで拝見したことがあります。英語の授業で「must」と「may」の違いを説明するために自らの顔写真の拡大版を用意し、「彼が犯人かもしれない」「彼が犯人に違いない」という解説を展開していました。こうした授業でしたら、生徒達も退屈せず、ぐいぐいと授業に引き込まれていくだろうと、大いに感心したものです。
そのための事前準備は大変でしょうが、それだけの努力をしなければ魅力的な授業は作れません。
塾教師の仕事を「教えること」と思っている人が多いのですが、それは塾教師の仕事の半分です。
公立学校の教師は四十人を前に授業をしても、離島の分校で二人を前に授業をしても収入は変わりません。なぜなら、彼らの仕事は「教えること」であり、目の前の生徒数に関わらず「教えること」は同じだからです。
しかし、塾の場合、四十人の生徒が二人になったら…収入云々の前に、塾自体が存続できなくなります。塾がビジネスである以上、生徒が楽しみにする授業を提供することは塾教師にとって必須です。少なくとも、経営者としては教師達が最もパフォーマンスを発揮できる管理体制を構築することが重要です。雑務に追われ、授業が疎かになるようでは本末転倒です。
また、全ての生徒にとって有効な授業(塾)が存在すると考えることには無理があります。
「○○な生徒には当塾が最も効果的です」という主張が塾の特長を認識させ、差別化を実現します。
それが先月お話したセグメント(絞込み)の肝です。市場(生徒)の2割の人に最適な商品(授業)を徹底的に開発して下さい。
基準は「得手・不得手」でも「好き・嫌い」でも構いません。それは人間関係と同じです。「誰にも嫌われたくないと考えている人は、誰からも好かれない!」塾も「誰でもどうぞ」と言っていると、誰からも支持されなくなります。
営業と顧客維持はファン作りのために
さて、次は「営業」(マーケティング)です。
どんなに優れた魅力的な授業を開発しても、それを市場に紹介しなければ意味がありません。「知られていない商品は存在しないのと同じ」というビジネス格言があります。いかにして口コミ・評判を築くべきか、戦略的に考えることです。
一つは「チラシ」「ホームページ」「入塾案内」の見直しです。あなたの塾を魅力的に紹介してますでしょうか。どんなに美味しい料理でも、食べてもらわなければ本当の美味しさは伝わりません。二割の生徒・保護者に「この塾は私(我が子)のための塾だ」と思ってもらえるような紹介方法を工夫して下さい。
チラシを、ホームページを見た人が塾の疑似体験ができることが重要です。キーワードは「リアル」です。
「焼き魚定食二千円」と表示するだけよりも、それに続けて「脂ののった旬の秋刀魚を備長炭で丁寧に焼き上げました。今しか味わえない本当の秋刀魚の美味を是非、ご賞味下さい」と書いた方が確実に客の食欲をそそります。
塾の説明も「丁寧にトコトン、分かるまで生徒に合わせた指導法で教えます」では、実感として塾の内容が理解されません。読者の五感に訴える説明を心掛けて下さい。
例えば…
授業中は教師の真剣な声と、生徒達が一心不乱に動かす鉛筆の小さな音だけが教室中を支配しています。こうした集中力を身に付けるために、当塾では授業開始前に…
こうした筆致の方が脳裏に授業風景が浮かぶはずです。
次に考えたいのは「紹介制度」「問い合わせ~面談のスキル」です。
一時、某週刊誌による某大手塾の紹介制度批判によって、「お友達紹介」がやりにくくなったのは確かです。
しかし、顧客獲得のサイクルが「①見込み客を集める→②見込み客を顧客にする→③顧客をファンにする→④ファンから紹介客を募る」である以上、紹介制度は絶対に必要です。
以前もお話したように、「○千円の図書券に釣られて友達を紹介した」と思わせない、後ろめたさを感じさせない紹介制度を確立して下さい。私は真摯な塾経営をしていれば、紹介のお願いに批判する「客」はいないと確信しています。 中小塾の弱点のひとつが、「問い合わせ~面談」のスキルです。
電話対応や接客のスキルが心許ない塾が多い。産業区分から言えば、塾はサービス業です。相手に不快感を与えない、好感の持てる対応を考えることは絶対に必要です。
中には、「そんな客に迎合するようなセールスはしたくない」と頑なな塾長に出会ったりしますが、「あなたのミッションは、優れた学習指導をより多くの生徒に提供すること」に異存は無いはずです。その「絶対に譲れないコアのミッション」のためには、周辺部分の要素には柔軟に対応してもいいのではないでしょうか。
少なくとも、人は不快な場所に集まることはありません。ぜひ、「電話の第一声」「来塾のお誘い」「名刺の渡し方」「入塾(体験授業)へのクロージング」等々、一つひとつ見直してください。それぞれの具体的方法については、過去に説明していますのでそれを参考にしていただければと思います。
最後は「顧客維持」です。塾の場合、「退塾防止」と言い換えてもいいでしょう。
授業の質(効果)という根源的な原因を除けば、退塾の理由は「コミュニケーション不足」に尽きると言っても過言ではありません。いかに家庭とコミュニケーションを図るかを「システマティック」に考えて下さい。
例えば、「ウチは何か問題があれば、いつでも面談をすると伝えてあるから…」と、定期的な三者面談をしていない塾があります。また、「個別面談を充実させているから…」と、全体保護者会を実施していない塾もあります。あるいは「勉強以外のことに関わりたくないから…」と、様々なイベントを実施しない塾もあります。もったいない。
もちろん、得手・不得手がありますから全てを実施する必要はありませんが、そうした家庭とのコミュニケーションを図る機会をシステマティックに用意しないと、結局、コミュニケーション不足が必ず起こります。
そうした塾はクレームも少なく、退塾者が安定的に発生しています。保護者(特に母親)が気安くクレームを言える人間関係を築くことは重要です。
「ちょっと言いにくいんだけど、英語の○○先生ね…」と、経営者の「あなた」に言ってくれる保護者を一人でも多く作って下さい。その家庭は間違いなく前述した「塾のファン」です。このファンは全体の5%と言われています。いきなり二十人の塾生を増やそうというのは難しく感じますが、ファンを一人増やすと考えれば、何か策が思い浮かぶはずです。 来期の戦略を練るチャンスは残り少なくなっています。冬期講習の準備に入る前に、是非、トライして下さい。もちろん、塾生数、売上といった数値目標と、予算を考えることも必要です。
予算、決算は税金を払うためにあるのではなく、年度計画を立て、実施し、検証するために必要なのです。「どんぶり勘定」「行き当たりばったり」の経営ではビジネスの常道である拡大再生産は望めません。大手・中小・個人に関わらず、そうした管理は必須です。 昨年後半から続く不況は、塾業界、特に中小・個人塾にも大きな影を落としています。しかし、だからこそチャンスでもあるのです。
自塾の体質強化を図り、新たなステージへと進化する「覚悟」を決める良い機会です。ここで体質改善ができた塾は向こう五年、十年と勝ち残ることが可能です。
全ての塾人にエールを送ります。子供たちの未来、日本の未来は「あなたの活躍」にかかっているのです。
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