この記事は塾生獲得実践会の森智勝氏のご厚意により、全国学習塾援護会のHPから転載したものです。
2009年12月私塾界掲載分
ロード・オブ・ザ・リングの話
私がセミナーの講演の最後に好んで使う「ネタ話」があります。まずはこれを紹介します。
もともとはカリスマ・マーケッターの小阪氏から教えてもらったネタです。私なりに工夫して使っていますが、上手く使えば、強烈なメッセージになります。
皆さんは「ロード・オブ・ザ・リング」という映画をご存知ですか? 「指輪物語」をモチーフとしてハリウッドで作られた三部に渡る長編映画です。日本でも大ヒットしたので、映画館で、あるいはDVDでご覧になった方も多いと思います。その三部作最後の完結編、「王の帰還」のラストシーンです。 最後の最後、人間の軍団と魔界の軍団の最終決戦の時がやってきます。見ると、山の向こうから魔界の軍団が10倍、100倍の数でやってくるのが見えます。兵士達は思わず怯(ひる)みます。 その時、主人公の王が馬にまたがり、剣を振りかざして叫ぶのです。 「確かに、我々人間が魔界の者達に敗れる時が来るかもしれない。魔界の者達に支配され、虐げられる日が来るかもしれない。しかし…」 ここで彼は映画史上に残る台詞を吐きます。 「しかし…それは今日ではない!」 But,it is not this day!と叫んだのです。 この言葉に兵士達は奮い立ち、結果、魔界の軍団を打ち破ることになるのですが…
この後、塾経営者のみなさんへの具体的メッセージが続くのですが、この「例え話」は塾生向けにも応用できます。例えば、これからの受験生に向けては…
この言葉を君たちにも送りたい。確かに受験勉強は長く、辛いかもしれません。「もう、やめよう。志望校を諦めよう。」と思う時もあるでしょう。でも…それは今日ではない! 今日できることがあるはずです。今日すべきことを今日やり、明日できることを明日やる…そうやって一日、一日を過ごした者だけに志望校合格という栄光はやってきます。いや、志望校合格だけではありません。その「覚悟」は君たちの人生において絶対に必要なものなのです。何かに躓(つまづ)き、辛くなったとき、夢を諦めようという思いが過(よ)ぎった時、心の中で唱えて下さい。 しかし、それは今日ではない!
こんな感じです。
また、今の時期の中学一年生にも使えます。特に部活に熱心に取り組み、体力的にも疲弊し始めた頃にこの話を伝え、言うのです。
夏休み前後から部活が本格化し、慣れない中学1年生にとっては体力的にきつくなります。しかし、ここを乗り切ることができれば、体力的にはもちろん、精神的にも強くなれます。 もともと、そんなことに負けない体力と精神力を養うことが部活動の目的の一つです。辛くなったら、『今が自分の(子供の)成長に重要な時期だ』と言い聞かせ、次の言葉を唱えて下さい。 『しかし、それは今日ではない!』と。
コツは、勢いをつけて力強く話すことです。言葉の一つひとつにエネルギーを込めて下さい。かなり効果的な逸話(例え話)です。保護者も同席している教育セミナー等で使うと、特に有効でしょう。 「例え話」を上手に使えるようになると、話の内容に説得力が生まれます。「感動授業」でお馴染みのアビトレ木下先生も講演で力説しています。上記の話も、言っていることは「諦めるな!」ということです。でも、これを…
受験までには辛いこともあるだろう。もう、勉強なんか辞めよう、入れる学校に行けばいいじゃないかと思う時もあるだろう。でも、最後まで諦めないで頑張って下さい。
…と、直訳で伝えたのでは古臭い人生訓になってしまい、相手の心に届きません。 また、話の導入も大切です。
これを…
受験までの1年間は辛いこともあるだろう。もう、勉強なんか辞めよう、入れる学校に行けばいいじゃないかと思う時もあるだろう。でも、最後まで諦めないで頑張って下さい。ところで、皆さんはロード・オブ・ザ・リングという映画を知っていますか?…
こんな順番で話したのでは興醒めです。ネタのばれた手品になってしまいます。
聴衆に「えっ、この先生、何を話し始めたのだろう?」と思わせないと効果が薄くなってしまいます。
退塾防止は塾の絶対的使命
ある先生から「退塾」についての相談を受けました。
中三生の退塾理由が「志望校ランクを下げたので塾で勉強する理由がなくなった」であり、中一生の退塾理由が「部活で疲れて、塾に通う体力と気力が失せてきた」だったそうです。
どの塾でも聞く話です。もし、冒頭の話を伏線として伝えていれば、そうした悩みを相談されたとき、「それは今日ではない!」と言えるのではないでしょうか。 退塾の申し出があった場合、説得で思い留まらせるのは至難です。また、説得できたとしても、ほとんどの生徒(保護者)は「何か上手く言いくるめられた」と感じ、ほとんどの場合、良い結果をもたらしません。 しかし、だからと言って「仕方がない」で済ませたのでは何の進歩もありません。必ず、一つひとつについて検証すべきです。 例えば、その塾生は塾にとって本当に必要な生徒だったか。
もし、「退塾してもらって良かった」と思える生徒ならば、本来、そんな生徒を入塾許可すべきではなかったのです。
また、「指導が厳しくて…」と成績不振者が去っていくのはまだ後遺症が少ないものですが、「指導が緩い」と言って成績上位者が辞めていくのは致命傷になります。
いったい、どちらのパターンだったのか。もし、後者だったのならば、授業そのものの有り方を大改革する必要があります。
当塾は成績を上げるだけではなく、人間力を上げることを心掛けた指導を…という謳い文句は、文字通り、「成績を上げること」を前提として通用する話です。我々は修行寺ではなく「塾」を営んでいるのですから。
けっして、成績が上がらないことのエスケープとして使いませんように…。 「退塾」は塾教師、経営者にとってショックが大きいものです。真面目に取り組んでいればいるほど大きい。何か、自分の能力、存在価値を全否定された気分になります。
経営者が現場教師に対して「何やっているんだ。もっとしっかり生徒を把握して退塾を防止しろ!」と言っていると、その現場教師にしてみれば二重に否定された気分になります。何にせよ、退塾は塾にも生徒にもメリットがないのです。
せめて、そこから学ぶことがなければ誰も救われません。 以前から主張していることですが、塾教師にとって「教えること」だけが仕事ではありません。それは映像教材でも代替できますし、優秀な生徒にとっては参考書でも代わりになることでしょう。
それ以外にすべき仕事があります。人として生徒、保護者を惹きつけ、影響を与え…有体に言えば「先生に会いたくて塾に来る生徒」を作ることです。
それは、塾生にとって勉強に励むモチベーションになりますし、塾の経営強化にもつながります。そのためには、情報をキャッチするアンテナを高く張り巡らせ、得た情報を加工し、説得力のある話として伝える努力が不可欠です。
冒頭に紹介した「ロード・オブ・ザ・リング」の話は一つの例ですが、こうしたネタを常に収集し、自分の胸の引き出しに入れ、臨機応変に使えるようにしておくこと…それも塾教師としての仕事であり、退塾防止にもつながるのです。ぜひ、トライして下さい。
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