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執筆者の写真森智勝

塾・新時代のマーケティング論(1) 「時代の変化を読み取る」

この記事は塾生獲得実践会の森智勝氏のご厚意により、全国学習塾援護会のHPから転載したものです。

業績が極端に悪化する塾が増えている。 私のところに来る相談の中にも、「5年前は400人の塾生が在籍していたのに現在は70人程度しかいない。」という塾があった。そこまで極端ではなくとも、サービス業である塾は小売業、飲食業などの他業種に比べ悪化の加速度が激しい。

そうした塾をいくつか見ていると、一つの共通するパターンが存在することに気付く。 変化を好まない、あるいは変化できない-これである。

どうしても好調だった時代のやり方にこだわり、変化ができない。「この方法で400人集めたのだから、間違ってはいないはずだ」と考え、従来の方法にしがみつく。ところが、ここ10年、時代は猛烈な勢いで変化をしている。塾が変わらずにいると、時代と塾の相対関係が大きく変化していくという皮肉な結果を生じる。その時代の変化を読み取り、塾が一歩先行く変化を遂げない限り持続的な発展は望めない。

では、塾を取り巻く時代はどう変化をしているか。

少し遠回りのようだが経済の話から始めよう。1992年にバブルがはじけ、それから10年以上の不況が続いている。最近の言葉で言うとデフレ。理由はいろいろと言われている。不良債権処理ができていないとか、規制緩和ができていないとか、あるいは金融緩和がどうとか…。ところが、根本的な理由というのは非常にはっきりしている。実は、「日本の人口構成がそうなっている」というのが理由だ。

ターニングポイントは2007年。この2007年を境に、日本の人口が減少に向かう。(実際には2006年の秋ごろが人口のピークらしい)人口が減少するということはイコール市場規模が縮小するということだ。そんなことはもう10年どころか、20年前から分かっていた。その市場縮小に対応すべく多くの企業がリストラというのを今、一生懸命やっている。それまでの生産効率では、市場の縮小に対応できないのだ。だからリストラをする。当然失業者が増える。不況になる。今は、その過程の真っ只中にある。

この市場の縮小、人口の減少という中で特に深刻なのが、労働人口の減少だ。この労働人口というのはイコール消費者人口である。少子高齢化が大きな影を落としている。こうした問題を前にして日本がとるべき方策は2つあった。1つは外国人労働者を受け入れること。ところが、(これはほとんど建て前だが)、大和民族単一国家を標榜している日本としては、どうしても選択できなかった。そこでもう1つの選択を日本はする。それがグローバル化だ。つまり日本の市場ルールを世界の――世界と言っても、実質はアメリカだが――市場ルールに合わせ、市場をボーダレス化することによって国内市場の縮小を補おうと考えたわけだ。だからグローバル化ということを今日本は、一生懸命推し進めている。

ルールをアメリカと合わせるわけだから、社会そのものもアメリカに近くなっていく。その社会を一言で言うと「2対8の法則社会」だ。これは、上位2割の国民が国の資産の8割を所有するという社会だ。例えば、国民が100人いて国の総資産が100万円だとする。そうすると上位2割の20人が8割の80万円を所有するので、1人平均が4万円。残りの80人が残りの20万円を分け合うので、1人平均が2,500円。上位2割と残り8割との間に、実に16倍の格差が生まれる。つまり上位の富める者はますます富み、残り8割の飢える者はますます飢えていくという、言ってみれば「弱肉強食」の社会だ。 日本も既に、そうした社会に一歩も二歩も足を踏み入れている。それまでの日本というのは、護送船団方式と呼ばれた方法で、総中流社会を作ってきた。国民の9割が自分は中流だと意識する社会だ。

この社会では、護送船団方式だから国民みんなが手をつないでいる。非常に楽に生きていける。右を見て左を見て、出すぎていないか遅れていないかだけを気をつけていればよかった。そして落ちこぼれと呼ばれる1割にさえ入らなければ、まあまあの生活、まあまあの幸せが保証された。そんな社会を日本は戦後作ってきた。それを可能にしたのが言うまでもなく、終身雇用と年功序列、この制度だ。だが残念ながらその社会はもう崩壊している。今は「2対8の法則社会」だ。そうすると、企業にとっても上位2割に入らないと生き残れない。当然、金融機関をはじめとする企業が合従連合を進める。

塾業界もそうした社会の変化と無縁ではいられない。

塾業界のターニングポイントは1996年。各データによると、どうやらこの年を境に通塾人口が減少を始めている。つまり塾業界はいち早く「2対8の法則社会」に突入しているのだ。だから、上位2割に入っている大手塾はますます伸び、その他の8割はますます衰退していくという構図が、塾業界では既にできつつある。これが真相だ。最初に紹介した400人から70人の塾は、上位2割への生き残りに失敗したのである。当然のことだが、上位2割に近いところに位置していた塾ほど凋落の度合いは大きい。

今後ますます少子化は続いていく。市場の縮小というのはもう避けられない。そうした中で塾が生き残っていくためには好むと好まざるとに関わらず、こうした時代の変化に対応したマーケティング戦略が必要となってくる。それなくして上位2割に留まり続けることは難しい。

書店に行けばマーケティング関連の書籍が並んでいる。しかし、塾経営に落としこんだ内容のものはない。関連の本を読めば読むほど塾長の苦悩は深くなっていく。ダイレクト・レスポンス・マーケティング、ワン・ツー・ワン・マーケティング、ランチェスターの法則…。理論は巷に溢れているが、知識を知恵にする変換機能を持たないと新時代の塾経営者はやっていけない。

このコーナーでは新時代の塾経営に必要なマーケティング理論を取り上げ、できる限り現場に落とし込んだ解説を加えていく。それは同時に、あなたの頭の中にある「変換機能」を加速度的に向上させる訓練にもなるだろう。決断の早い人というのは、「えいっ」と闇雲に運を天に任せているのではなく、変換機能が優秀な人である。


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