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執筆者の写真森智勝

塾・新時代のマーケティング論(43) 人材の強化はミッションの確認から

この記事は塾生獲得実践会の森智勝氏のご厚意により、全国学習塾援護会のHPから転載したものです。

先月号の予告を受けて、人材の強化についてお話します。

顧客名簿に続く、もうひとつの塾内財産は、言うまでもなく人財です。特に今春に入社した新卒社員は、この時期、モチベーションを落としがちです。この人財をブラッシュアップすることが重要です。

春は、誰もが意欲満々でスタートします。新入社員だけではなく、ベテランもバイトも…そして、「あなた」自身もそうだったと思います。ところが、いつものルーティーン・ワークに慣れ、最多忙期の夏期講習を終えると、何かこう、ぽっかりと空いたエアポケットに落ち込むような…そんな時期になるのではないでしょうか。新入社員が理想と現実のギャップに疲れ、退職を考えるのもこの時期です。ここで、もう一度、塾全体のモチベーションを上げる研修を実施することをおススメします。

その第一歩はミッションの確認です。

ミッションとは企業が持つ理念とか社会貢献を指します。企業活動を通してどんな価値を社会に提供するかということを宣言するものです。

確かに、企業活動の目的は利潤の追求であり、そのことを通して富の創造、再分配をすることが社会的機能として求められるのですが、それだけでは市場から永続的に支持される企業には成り得ません。ミッションという崇高な「建て前」を掲げてこそ本来の目的は達成されるのです。

ミッションを掲げると、企業としての行動様式が自動的に決まります。つまり、ミッションに合うことは何でもやる。合わないことは一切やらない。それでいいのです。実にシンプルです。ところが、多くの企業が『理念』を掲げながらも、スローガンで終わらせてしまいます。

例えば、『顧客第一主義』を掲げながら、利益率の高い商品を「キャンペーン強化商品」などと銘打って、優先的に販売させたりします。言っていることとやっていることが違うのです。こうした企業は賢明な消費者に体質を見抜かれ、すぐに「金儲け主義」というレッテルを貼られます。何よりも、これでは現場で働いているスタッフのモチベーションは上がりません。内部の人間が「うちの会社は単なる儲け主義だ」と思うようでは、労働意欲も定着率も上がるはずがないのです。小売業では「パートのおばちゃんが自分の店で買い物をしないスーパーは流行らない」という格言がありますが、理由は同じです。偽装した牛肉を、うなぎを、その会社の社員は買うでしょうか?手抜き工事で建てた住宅に、その職人さんは住みたいと思うでしょうか。

「顧客第一主義」で思い出すことがあります。以前、家族5人で食事に行った時のことです。それぞれに会席膳を注文し、それ以外に一品料理を5~6品頼みました。その店は「しゃぶしゃぶ」の専門店だったので、個室に据え付けられたテーブルの上には電器コンロが2つ置かれていました。一品料理を家族で取り分けるのに邪魔になると思い、配膳係の方に頼んで片付けてもらいました。

数品の料理がテーブルに並び始めた頃、配膳係が再びコンロを出そうとします。聞けば、「鍋がありますので、ご用意させていただきます。」とのこと。

会席膳の「お品書き」には「一人鍋」とあります。店の意図は明らかです。それぞれに一人鍋を用意するところを、一つの大鍋で調理することによって手間と経費を省こうとしているのです。つまり、客の都合よりも店の都合を優先している…これでは客から支持される店にはなりませんし、何より客から何度もクレームを受ける現場スタッフのモチベーションは上がらないでしょう。料理は美味しかったのですが、私は2度とその店に行きたいとは思いません。

社員が誇りを持って働ける職場環境を作ることは経営者に課せられた責務です。最近では「顧客満足度」と並んで「社員満足度」が問われています。そのために職場環境や待遇を改善することは重要ですが、それだけでは充分とは言えません。

人は誰もが自分の存在価値を自認したいという欲求を持っています。それは、自分が誰かの(社会の)役に立ったときに初めて実感として得られるものです。自社製品を提供した「客」の笑顔、感謝の声…それは魂のご褒美です。そのご褒美が多い企業は、社員も誇りを持って活き活きと働き、社会から永続して求められ、成長と発展を続けていきます。あなたの塾の教師たちが単なる「指導マシーン」に陥らないためにも、今の時期の研修は必要なのです。

そうした時、おススメするのはグループワークです。1グループ8名以下に限定して、「塾の社会貢献」等のテーマについて自由に話し合ってもらいます。何十人もが参加する全体会議では発言者も限られ、また、自由な発言は出てきません。少人数にグループ分けすることによって雰囲気も和み、本音で話すことが可能になります。

塾にとっての商品は紛れもなく「学習指導」であり、結果としての成績向上であり、志望校合格です。しかし、そこで思考が止まってしまう塾には、ある種の限界があります。その学習指導を通して提供する(伝える)何かがなければ、顧客もスタッフも幸福感を持てないままに忸怩たる日々を過ごすことになります。また、前述の店のように客(貢献すべき相手)の存在が見えなくなると、知らず知らずのうちに本来目指すべき方向とズレてしまいます。

ぜひ、あなたが塾経営を目指したときの思いをスタッフに伝えて下さい。そして、スタッフ個々が塾というステージで果たすべき自己実現、社会貢献について見つめ直す機会を作ってください。スキル的な研修の重要性を否定するものではありませんが、明確な商品を提供しない塾にとって、「思い」を共有することは、塾(会社)全体のモチベートに重要です。今の時期に「あなたの思い」をあらためて伝え、共有することです。人財の強化はそこから始まります。

今、塾業界では人材の流出が大きな問題となっています。せっかく育てた「暗黙知」を手放すのは辛いですね。そうした事態を招かぬ対策としても研修は有効な手段です。人は「自分を成長させる条件のある場所」からは易々と逃避はしないものです。

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