この記事は塾生獲得実践会の森智勝氏のご厚意により、全国学習塾援護会のHPから転載したものです。
各塾とも来年度採用予定者(内定者)の研修が始まっていることでしょう。私も先日、とある中堅塾さんの内定者研修でお話をさせていただきました。
冒頭、いきなり一人の学生、A君を指名して自己紹介をお願いしました。いきなりのことで戸惑いながらも、卒のない挨拶をしてくれました。次に、別の学生B君に「今、自己紹介をしてくれた彼はどんな人ですか?」と質問しました。すると、「彼は○○大学でサークルは△△で…」と説明を始めます。両者とも学生としては申し分ない対応です。でも、履歴書に書いてあるプロフィール以上のことは発見できませんでした。
A君の自己紹介は、自らの履歴に終始しました。しかし、それだけでは人に自分を印象付け、覚えてもらうことは難しい。他人(ひと)は、彼の肩書きに興味があるわけではありません。それをいくら並べても、信頼感や親しみを持ってもらうことはないでしょう。また、B君もA君のレッテルだけを見て、それをオウム返しのように繰り返すだけです。その話しぶりから滲み出る彼の明るさ、意欲…そうした人としての本質を述べることはできませんでした。もちろん、とっさのことですから無理もありません。同じことをさせれば、100人が100人、同様の対応になることでしょう。しかし、それでは企業人、特に塾人としては不合格です。
我々は初めてお会いする客(保護者)に対して、瞬時に信頼感や親しみを感じさせなければなりません。「この先生ならば子供を任せてもよい」と思わせる必要があります。また、生徒のことを聞かれて「この子は○○中学校の2年生で、数学が90点で国語が…」という紹介しかできないようでは塾人失格です。
この事例から、塾人として必要な資質、能力が具体的に炙り出されます。一つは観察力です。人や物事を観察し、本質を掴む能力です。もう一つは表現力です。伝えるべき事象をいかに魅力的に、興味を持ってもらえるように話すか。塾人としては欠かせない能力です。見込み客から「あなたの塾はどんな塾ですか?」と聞かれて、「創業15年で、教室数は10で…」と答えていたのでは相手の心は掴めません。
研修として、社会人としてのマナーや教務的内容は必要条件ですが、それだけでは充分とは言えません。特に、新人(内定者)研修では「塾人として必要なこと」を伝え、それを会得できる場にする必要があります。「ただ英語の指導が出来る」というだけでは塾人としては半人前だということを教えなければなりません。なぜなら、多くの学生が「塾人の仕事は教えること」と思っているからです。
多くの塾を訪問して、多くの若い塾人と接して感じることがあります。彼らの中には、理想と現実のギャップに悩み、疲弊している人がいます。もともと、塾業界を志望する学生は他の学生と異質です。一般的な学生は、業種を絞って就職活動をすることがありません。そのため、ある意味ニュートラルな状態で入社します。ところが、塾業界を志望している学生は、「教育」というものに情熱を持ち、指導者を目指した就職活動をしています。「子供が好き」「教えることが好き」という思いが根底にあります。そのこと自体は好ましいことなのですが、反面、純粋すぎる思いを持っているが故に現実とのギャップに耐えられないのです。結果、「そんなことをするために塾に就職したのではない」と言って辞めていく若者が後を絶たない。実に残念なことです。
自塾が何をもって社会貢献し、そのために必要な塾人の資質、役割は何か。初期の研修は、そうしたことを伝え、自覚してもらえる「場」にすべきです。そして、研修を通して参加者が自らの成長を実感できることが重要です。人は、「自分が成長できる場」からはけっして離れようとしないものです。
前述の内定者研修で、一人の学生から質問を受けました。「どうしたら上手に話せるようになりますか?」
もちろん、「声が大きい」や「滑舌がよい」という素質の部分もあります。また、「間の取り方」「話の構成」等のスキルの問題もあります。しかし、最も重要なことはインプットの量を増やすことです。詳しいことは脳科学の専門家に任せますが、少なくともインプットの量が少なければ充分な(相手を納得させたり、感動させたりする)話はできません。この点でも多くの塾教師が持っている欠点を指摘することができます。塾の現場では、当然のことながら担当する教科の研究が最優先です。しかし、それだけに傾注している教師は子供や保護者の目には魅力的に映りません。人としての幅や奥行きを作るのは、コアの部分と周辺とのギャップです。長島茂雄は天才的なプレーと破天荒な言動とのギャップによって多くのファンを掴んで離しません。「高倉健がキティちゃんのハンカチを持っていた」という逸話を聞いて、幻滅するどころか、さらに彼を好きになったりします。世の女性達が「不良少年が時折見せる優しさ」に惹かれるのも同じ現象でしょう。
専門の教科に造詣が深いことは必要条件です。しかし、それだけでは「感心」はされても「感動」を与えることはできません。理想の塾人を一言で表すならば、「感動を与える人」です。そのためには専門知識だけではなく、より広く見聞を拡げることです。そして、最も大切なことは、自らも感動できる人物でなければなりません。感動を知らない人が、人に感動を与えることは不可能です。
ようやく結論まで来ました。つまり、あなたの塾(会社)の研修が、参加者に感動を与えているかが問われているのです。研修で感動を実感した参加者は、きっと感動を伝道する人になっていくことでしょう。必須だからと嫌々参加する研修と、感動を求めて積極的に参加する研修と…どちらが効果的かは言うまでもありません。ぜひ、これからの研修のあり方を見直してください。塾の体質強化はそこから始まります。
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