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  • 執筆者の写真森智勝

塾・新時代のマーケティング論(79) 「利益重視」の落とし穴に落ちないように

この記事は塾生獲得実践会の森智勝氏のご厚意により、全国学習塾援護会のHPから転載したものです。

 先日、とある塾の会議に参加したときのことです。「利潤の追求」について話し合いが行なわれていたのですが、気になることがあったのでご報告します。その塾では会議参加者の多くが「売上」よりも「利益」を重視していました。企業の目的が「利潤の追求」にあるのは言うまでもないことですから、利益を重視するのは当然です。しかし、それが売上軽視につながるとなると話は別です。  ちょっと小難しい話になりますが、お付き合い下さい。  経済には三面等価の原則があります。一国の「生産(GDP)」「分配」「支出」は等しくなるという原則です。日本の場合、GDPが約500兆円です。これが国民、企業、政府に分配され、そこで支出されます。タンス預金以外の貯蓄は投資の形で支出されることになりますので、計算上は3つの側面から算出される額は等しくなります。すると、社会全体を豊かにするためには、最初のGDPを大きくしなければならないのは自明です。今の日本が抱えている問題は、このGDPが20年近く延びていないことです。GDPが増えなければ国民の給与も増えず、支出も増えません。  一般国民の給与として分配される額は全体の6割弱です。「内需拡大のためには国民の懐(ふところ)を温めなければならない」との理屈で地域振興券が配られたこともありますが、ほとんど効果がなかったことはご存知の通りです。根本的には大元であるGDPを増やさなければ解決にはなりません。繰り返しますが、GDPが増えて初めて分配も増え、支出も増えます。  さて、この原則を企業に置き換えると見えてくることがあります。企業にとってのGDPとは何か。言うまでもなく「売上」です。この売上が増えなければ、企業としての発展、拡大はありません。  利益は「売上-経費」で計算されます。すると、利益を上げる方法は2つしかないことが分かります。売上を上げるか、経費を削減するかです。もちろん、無駄な経費を削ることは当然です。しかし、利益至上主義に陥ると、企業全体がデフレ状態になってしまいます。例えば、塾にとって最も大きな経費は人件費(研修費や採用経費も含む)です。ここを削ってしまうと教師の劣化が始まります。すると、当然のこと塾生数の減少を招きますので売上が低下します。結果、さらなる経費節減が求められ、人件費の圧縮に目が行く…こうした悪循環が企業のデフレ・スパイラルです。もちろんデフレ・スパイラルに陥ると、人件費だけでなく設備投資や広告宣伝費も縮小されることになります。  たとえ利益が増加しても、売上(塾生数)が減少している場合は要注意です。それが何年も続くと、デフレ・スパイラルに入っていきます。  何度も指摘してきたことですが、単なる経費と投資を分けて考えることが必要です。利益重視のあまり投資まで削ってしまうと、企業のGDPは縮小均衡に入ってしまいます。  多教室展開をしている塾の場合、現場責任者(教室長)にどこまで責任を負わせているかを見直してください。もし、「利益確保」まで現場に責任を負わせているとすれば一考を要します。「現場責任者の裁量で目標利益を確保すること」と命じられた場合、時として教室単位でのデフレ・スパイラルが起こります。  真面目な教室長は、何が何でも利益を確保しようと努めます。すると、部下に対して無理な注文を付け始めます。サービス残業を強いるようになります。玄関や廊下の照明を落とし始めます。実は、部下にとって経費削減の業務命令ほど嫌なものはありません。当然、命令者を快くは思いません。そこに、教室長と部下の人間関係の綻(ほころ)びの種が生まれます。社員にとって嫌な業務命令は、現場責任者からではなく本部命令として出すべきです。中には、教室別のデータを基に「A教室は人件費率30%なのに、君の教室は35%だ。何をやっている」と、教室間の競争を促す手法を使っている塾もありますが、教室間競争は明るく前向きな分野で行う方が賢明でしょう。経費節減のように、社員にとってネガティブな戦略は、アイディアを現場から吸い上げ、本部からの提案(命令)として実行した方が現場の人間関係には有益です。言うまでもないことですが、現場の人間関係がギクシャクし始めると業績にも悪影響を及ぼします。  現場責任者には「塾生数を増やすこと」を第一に考えられる業務環境を与えたいものです。誰もが「削減」よりも「増加」にモチベーションを感じるのですから。  塾は、商品を売らない100%労働集約型のビジネスです。現場の教師がそのまま商品です。ならば、その教師たちが常に明るく、前向きに業務に励むことが出来るように配慮することが経営陣の最大の役目でしょう。  先日、セミナーに参加してくれた大手塾の若手社員から聞いた話です。彼は、その塾の出身だったのですが、大学卒業後は一般企業に就職しました。ところが数年で退職し、次の就職先を探して「就職フェア」に行ったそうです。そのフェアには出身の塾も出展していて、興味本位でブースに立ち寄ったところ、そこにいた経営者が「○○君、久しぶりだね。元気だったか」と声を掛けてくれたのです。彼にとっては衝撃だったようです。まさか、自分のことを覚えてくれているとは思わなかった…感激した彼は出身塾への就職を決め、現在も奮闘中です。  顔と名前を覚えるというのはワン・ツー・ワン・マーケティングの基本です。それは顧客対象だけではなく、社内マネジメントにも有効です。たとえ、社員が10人だろうが100人だろうが、全ての社員が全ての社員の顔と名前を知っている…そうした企業は確実に企業全体が明るく前向きになっています。  業界全体に逆風が吹き荒れている昨今だからこそ、意識的に前向きな雰囲気を作ることに努める必要が増していると思うのですが。

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