この記事は塾生獲得実践会の森智勝氏のご厚意により、全国学習塾援護会のHPから転載したものです。
NHKまでがニュースで取り上げるくらいですから、もう「社会現象」と言ってもいいでしょう。AKB48総選挙が6月に行なわれました。私は出張先の新潟のホテルで生中継を見ていましたが、あらためて多くのことを学びました。
AKB48は体育会系の部活と同じです。チームとして全体の進化を図りながら、チーム内では熾烈なレギュラー争いを繰り広げています。そこに「本気」が存在します。中一の少女が「将来、アイドル歌手になるの」と言えば、周りの多くの大人は「何を夢みたいなことを…」と思うでしょう。しかし、その少女がアイドル歌手になるために、月曜日と木曜日は歌のレッスン、火曜日と金曜日はダンスのレッスン、水曜日と土曜日は芝居の稽古、毎日5kmのランニングをして川の土手で発声練習をしていることを知れば、「がんばれよ。応援しているからね」と声を掛けるはずです。人は「人の本気」に感動します。
塾経営も同じです。現場の教師が生徒の学力向上のために、どれだけ本気で取り組んでいるか。経営者が塾生獲得のためにどれだけ本気で取り組んでいるか…それが問われています。その本気度が人を感動させ、感動が人を動かします。誰もが感動した映画を見た後は、周囲の人に「ねえ、あの映画見た?」と自ら話題を切り出します。海外旅行から帰って来ると、身銭を切ってまで用意したお土産を渡しながら、「あのビーチで見たサンセットは素晴らしかった」と話すのです。
以前にもお話しましたが、期待値に届いただけでは「満足」に留まり、人は「満足」では行動に移しません。それは「当たり前」と思います。塾で言うと、「高い授業料を払っているのだから、教師が一生懸命に指導するのは当たり前だ」と思っています。そこを超えて初めて感動が生まれます。つまり、塾の教師が「塾の教師が言いそうなこと、やりそうなこと」を言ったりやったりしているうちは、感動を提供することはできないのです。そこを超えなければ、あなたの「本気」が伝わらないのです。
篠田麻里子さんのスピーチも示唆に富んでいます。チーム最年長(26歳)の彼女は次のように言いました。
「後輩に席を譲れと言う人もいるかもしれませんが、私は席を譲らなければ上に上がれないようなメンバーは、AKBでは勝てないと思います」
多くの塾人と話していると、「あの塾(地域一番塾)があるから生徒が集まらない」「あの塾がこの地域に進出してきて生徒が減った」という話を聞くことがあります。しかし、原因を外に求めている間は、その塾に勝つことはないでしょう。確かに縮小均衡市場では、「どこかの客が増えれば、あなたの客が減る」という現象が生まれます。だからこそ本気で生徒を増やすことが必要なのです。各塾が健全な競争を経て、より良い学習環境を地域に提供することが業界全体に課せられた使命です。それを可能にするのは、本気と本気のぶつかり合い以外にありません。
さて、あなたの塾の本気度はどうでしょう。例えば、「本気で授業のクオリティを高める努力」をしていますか?それは、生徒・保護者が「そこまでやっているのか」と感動するだけの取り組みでなければなりません。先日拝見した某塾講師の授業は、お世辞にもクオリティが高いとは言えませんでした。与えられた使用教材に添って、通り一遍の説明をしているだけです。そこには生徒にとっての新たな発見も、感動もありません。
塾にとっての商品である「授業」には2つの役目があります。1つは言うまでもないことですが、新たな知識を学ばせ、習得させることです。もう1つは、授業を通して生徒のモチベーションを高めることです。帰宅後、小学生が「ねえ、お母ちゃん。今日、塾の先生がねえ…」と親に話したくなるような授業を提供することです。中学生が「よし、やるぞ!」と学習意欲を高め、帰宅してすぐに机に向かう姿勢を見せるような授業を展開することです。そして、全ての生徒が次の授業を待ち遠しいと思わせる授業を作り上げることです。塾教師にとっての「予習」とは、それを目的にしなければなりません。
我々がウサイン・ボルトの走る姿に感動するのは、あの10秒にも満たない「走り」の向こうに、我々が真似のできない厳しい訓練の日々が見えるからです。AKB48のステージに感動するのも理由は同じです。確かに、クオリティの高さとしてはショウ・ビジネスのプロと比べるまでもありませんが、やはり彼女達の努力の日々が透けて見えます。(AKB48の場合、それをドキュメントで上手に見せる手法を使っていますが…)
我々が二十歳前後の少女達に本気度で負けるわけにはいきません。彼女達は「AKB48に全てを奉げる覚悟をしている」と本気で言います。我々も学習指導に、塾経営に、全てを奉げる覚悟をしましょう。そうした覚悟を持った集団が塾を形成すれば、必ず相手(保護者・生徒・地域)を感動させ、行動させ…多くの塾生を獲得することにつながるはずです。
さあ、夏期講習が近くなってきました。今からカリキュラムや教材を変更することは無理かもしれませんが、「本気」を注入することは可能です。教師全員に檄を飛ばし、全力で講習に取り組む集団にしてください。ややもすると、(受験学年は大丈夫でしょうが)暑さに負けて気の抜けたような講習を展開している塾を見掛けます。これでは本気で取り組んでいる隣の塾に勝てません。
講習に限らず、日々の授業、マーケティングに常に高いモチベーションで取り組むのは難しいものです。だからこそ、経営者である「あなた」の存在が必要です。塾全体の本気度は「あなたの本気度」に掛かっています。「最近の若者は覇気がない」と嘆く前に、あなたの本気を伝播する方法を考えましょう。
AKB48に関しては、批判的な意見が存在することも承知しています。「投票権をエサにして若者にCDを大量に買わせる手法」を批判する人は多いでしょう。しかし初年度を除いて、現実には「投票権付CD」よりも、総選挙後の選抜メンバーでリリースされたCDの方が売れています。大人の良識で?批判することは簡単ですが、その向こうにある真実を見る目が曇るのは避けたいものです。アンテナを立てていれば、全くの異分野からも学ぶべきものはあります。「小さな成功は同業者から、大きな成功は異業者から」というのがマーケティングの常識です。
最後に、AKB48総選挙のスピーチを聞いていて、もう一つ感心したことをお伝えします。ほとんどのメンバーが挨拶の冒頭、「…ありがとうございます」と現在形で話していました。もともと、「ありがとう」という感謝の言葉は現在形しか存在しません。「ありがとうございました」と過去形にした場合、今現在は感謝していないことになってしまいます。ところが、多くの人が当たり前のように過去形で使っています。これは想像ですが、プロデューサーである秋元氏の指導があったのではないでしょうか。ご存知のように、秋元氏は日本を代表する作詞家です。言葉を大切にしていることは想像に難くありません。こうした小さな部分まで指導を徹底している様子に感心すると共に、あらためてAKB48の強さの秘訣を見たような気がします。
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