この記事は塾生獲得実践会の森智勝氏のご厚意により、全国学習塾援護会のHPから転載したものです。
サッカーの中田英寿選手が引退を発表して朝からワイドショーは大騒ぎになっています。長く日本代表を支えてきてくれた中田選手には多くのサポーターから感謝と、引き際の鮮やかさに対する賞賛の声が挙がっているようです。チーム内部から漏れ聞こえてくる「中田批判」とサポーター・マスコミの持ち上げ方のギャップには個人的に大きな興味を持っています。中田選手のセルフマネージメントの能力について。(いずれお話したいテーマです。)
ところで日本代表を4年間指揮したジーコ監督に対する批判の1つに「次世代の育成を疎かにしたこと」があります。実際、ワールドカップ出場国には10代や20代前半の若い戦力が目立ちます。マラドーナ2世と言われるアルゼンチンのメッシ選手、イングランドのルーニー選手、ブラジルのロビーニョ選手などはその代表でしょう。それに対して日本代表にはその世代の選手は一人もいません。アテネオリンピック代表からは駒野選手と追加招集された茂庭選手の二人だけであり、それにしても年齢は今年25歳です。次のオシム?ジャパンにとって、次世代の育成が急務であることは多くの関係者が主張しています。どの分野においても世代交代は大きな課題であるようです。そう、それは塾業界においても。
先日、関西の地方都市にある「個人塾」を訪問してきました。塾長は大手塾に数年勤めたあと独立、現在30歳。1対3の個別指導塾を開講し、2年間で100名を超える塾生を集め現在は満席状態です。近隣の大手塾からも多くの生徒が移籍して地元で評判の塾になっています。塾長自らも学習指導の現場に立ち、テスト前は午前6時からの早朝特訓を実施するなど、若さに任せて精力的に実践しています。しかし…
残念なことに彼(塾長)は数年後に家業(寺)を継がなくてはいけない宿命を背負っています。そのため、事業を拡大するつもりはなく、それどころか数年後の継承問題に悩んでいるのです。私は「事業を発展させること」によってオーナーとして経営を継続することが可能なこと、また、経営権の譲渡という形での継承も可能になることを伝えました。
最近、本誌上でも大手塾の「継承問題」が取り上げられることが目立ってきましたが、中小塾こそ愁眉の課題です。現在の中小塾経営者の多くは「団塊の世代」であり、リタイアの時期が迫っていることは避けては通れない事実です。経営を続けていればこその有形・無形の財産も、廃業となれば無に帰すどころか処分代が必要な事態になります。また、地域における優良な「個人塾」が消滅することは教育環境の選択肢の消滅であり社会的損失です。これをお読みの大手塾経営者の方にもご理解いただけると思うのですが、地域に大手塾しか残らない姿はやはり不健全です。
かと言って、現在の塾業界が多くの若者が意欲を持って飛び込んでくるほど魅力的な業界かと問われれば、昨年辺りから大手塾でさえ人材採用に苦慮している事態を見る限り「否」と言わざるを得ません。つまり、少子化による市場の縮小規模を上回る「業界縮小」の危険すらあるのです。
以前もお話しましたが、育児休暇を取れないどころか、有休はおろか週休二日も満足に実施できていないというのが現状です。中小塾は経営者の個人的犠牲の上に成り立っているというのは常識ですが、その意味では大手塾も事情は同じです。(もっとも日本社会全体が依然として共通の構造的問題を抱えているのかもしれませんが。)経営者・社員レベルどころか、最近では大学生の不人気アルバイトの1つにも数えられる始末です。
ライブドア問題や村上ファンド問題等、一時期の「濡れ手に粟」式ビジネスに社会的(国家的?)警鐘が鳴らされていますが、まだまだ多くの若者はIT系に代表されるヒルズ族(あくまで象徴としてですが)を目指しています。彼らの目には華やかで魅力的な業界に映っているのでしょう。
私は最近のセミナーの最後に必ず次のような「お願い」をしています。一方にヒルズ族があるのならば、その対極に立って彼らと壮大な綱引きをして社会的バランスをとる勢力が必要なこと。その対極に立つべき人は、究極のアナログである「教育」に関わっている我々塾人であることを。そして、その活動は単なる精神的スローガンではなく、先月もお話した「形」で表す必要があるのです。私は塾業界が率先して育児休暇導入等の少子化対策に取り組むことを期待しています。それ以外にも、それぞれの塾が企業として魅力的な姿を見せ、若者の支持を得、優秀な人材の流入を図らなければなりません。そのことが業界全体を活性化させ、新たな成長カーブの基になっていくと考えています。
成長している塾には必ず優秀な若手社員が存在し、イキイキと働いています。同様に、0から塾を起業して「大手塾」を目指す若者をもっともっと輩出する環境を業界全体として作り上げたいと考えています。そうした野心的若者が魅力的に感じる業界になるように。現在「大手塾」と呼ばれている塾も、最初は「個人塾」のスタートだったはずですから…。
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