この記事は塾生獲得実践会の森智勝氏のご厚意により、全国学習塾援護会のHPから転載したものです。
ビジネスにおいて、消費者ニーズを掴(つか)むことは重要です。しかし、消費者ニーズには2種類あることを知らない人が結構多いものです。1つが「顧客ニーズ」で、もう一つが「見込み客ニーズ」です。ややもすると「消費者ニーズ=顧客ニーズ」と思われがちですが、実は見込み客ニーズの方が重要です。
既存客は基本的にあなたの提供する商品(授業、講師等)に満足しているから顧客になっています。この顧客にニーズを尋ねると、次のことしか言いません。
「もっと安く」
「もっと便利に」
「もっと…」
これです。「もっと…」の連発になります。
人は(特に常連客は)値下げをすれば儀礼的に感謝するものです。また、値上げをすると儀礼的に苦情を言います。その常連客に媚びて?価格的なサービスを続けていると、確実に経営を圧迫します。
もちろん、常連客は大切です。居酒屋の大将が常連客に対して、たまに「板わさ」をサービスするのはいいでしょう。しかし、それが日常化すると弊害が大きくなりすぎます。
第一に、前述したように利益を確実に圧迫します。常連客を喜ばすために倒産したのでは本末転倒です。もう一つ、大きな弊害があります。それは…新規顧客がコミュニティーに入り辛(づら)くなることです。居酒屋の例で言うと、常連客だけに板わさを振舞う大将を、一見客はどう思うでしょう。
「ああ、ここは私のための店ではない。」
そう感じているはずです。
これでは常連客だけのコミュニティーが固まってしまい、新規顧客を獲得することは難しくなります。ビジネスは常に新規顧客の開拓が必要です。新規顧客を作れないビジネスは早晩、衰退します。
「顧客ニーズ」に過度に対応することは避けるべきです。常連客への「えこひいき」は別の形でしましょう。
また、「もっと…」のニーズからは新しい発想を得ることができません。まだ顧客になっていない人のニーズを掴むことで、初めて新しいヒントを得ることができます。これが、ビジネスの発展を生み出します。
「あの人は何故、当社の顧客になっていないのだろう?」
その視点が思わぬヒントをもたらします。
注意しなければいけないことは、「全ての人に顧客になってもらおう」とは決して思わないことです。あくまでも「見込み客」、つまり、あなたのビジネスが有効であると思われる人にセグメントをすることです。
全ての人を顧客にしようと考えることはテーマが大きすぎます。例えていうと、「世界平和のために何が出来るか」を問うようなものです。私なら…「お祈りします」としか答えられません。
「私の塾はすべての子供に有益だ」と考えるのは傲慢です。「私の商品を買って喜んでくれる人」だけを対象とするビジネスに徹しましょう。京都の「一見さん、お断り」は店の傲慢さの象徴のように言われますが、もともと謙虚な姿勢から生まれたものです。京都は内陸という地勢上、常に良い食材が入手できるわけではありません。そんな時、常連さんならば謝って理解してもらうことも出来ますが、初めての客、それも期待して来てくれた客に事情を説明して理解してもらうことは難しい。「一見さん、お断り」は、そんな発想から始まりました。
そう、あなたの商品を買って喜ぶ人だけを顧客にしていけば、常にWIN-WINの関係を築くことができます。セールスに関するストレスもなくなります。また、そんな顧客は「値下げ」を要求することもありません。私(森)がフレンドシップマーケティングをおススメしているのも、上記の理由が大きい。(もちろん、経営者として別の苦労があることは重々承知しています。それを私は「経営者の醍醐味」と表現しています。)
既存客のニーズ(もっと安く、もっと便利に)だけを傾聴していると、(表現は悪いですが)奴隷ビジネスになってしまいます。「安くしますから入塾してください。」こんなセリフを好んで使う塾人はいないですよね。「買ってくれてありがとう」「売ってくれてありがとう」と、互いに感謝し合える関係を顧客との間で築きたいものです。それがWIN-WINの関係です。
ところが、多くの塾が既存客の「もっと…」に応えようとしています。
先日、ある塾長さんから連絡がありました。「セミナーに参加する予定でしたが、塾生の都合でその日に模試を実施することになりました。行けなくなってすみません。」とのことです。多分、塾生の部活か何かの用事で振替え模試を実施することになったのでしょう。非常に熱心な塾です。こうした塾はテスト前も休みを削って補習に打ち込んでいることでしょう。顧客の「もっと便利に」に精一杯応えています。しかし、そのことが講師の疲弊を招いていないでしょうか。熱心な塾、熱心な講師ほど自分を犠牲にしてしまいます。
誤解の無いように繰り返しますが、「顧客ニーズに応えるな」と言っているのではりません。あくまでも塾側が主体性を持ち、戦略的に進めるべきであり、その向こうに存在する「見込み客ニーズ」にもアンテナを向けて欲しいのです。
あなたの塾を本当に必要としている人は、まだまだ大勢いるのですから。
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