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  • 執筆者の写真森智勝

新時代のマーケティング論(27) 価格戦略と労働環境の相関図 2007年6月私塾界掲載分

この記事は塾生獲得実践会の森智勝氏のご厚意により、全国学習塾援護会のHPから転載したものです。

私の知り合いのデザイン会社が大変なトラブルに巻き込まれています。職務怠慢で解雇した元社員が某市民団体に駆け込んで「不当解雇と残業代の未払い」を理由に団体交渉?に乗り込んできたのです。ご存知のように、デザイン会社は仕事の性格上、深夜勤務に及ぶこともあります。しかし、考えてみれば、デザインのようなクリエイティブな仕事は10分で発想できることもあれば、3日掛かってもダメな時もあります。それを一律に「労働時間で評価しろ」と言うのは無理があります。製造業のように、ある程度「数字(労働時間等)」で労働内容を測れる職種と違い、サービス業は労働時間で評価することはできません。

同様のことは塾業界にも言えます。象徴的な例は次のような場合です。

ある社員Aが夜遅くまで仕事をしています。塾長が「もう遅いから帰りなさい。」と言っても「これだけ終わらせてから帰りますから、どうぞお先に。」と仕事を続けています。塾長は「いやあ、彼は熱心だなあ。」と感心して自由に仕事をさせていると…数年後、何かの諍(いさか)いで社員Aが退職したとき、労働基準局に訴えるという暴挙?に出ることがあります。曰く「あの塾は長時間のサービス残業を強いている…。」

実は日本のサービス業は先進諸国の中で最も労働生産性が低いというデータがあります。それを社員の献身的な「サービス労働」で補っているというのが実情です。その根本的な理由はどこにあるのでしょうか。もちろん、労働生産性を高める不断の努力は必要ですが、私はサービス商品の価格が低すぎることに原因があると考えています。

もともと日本では「サービス」(目に見えないもの)に対する評価が低いという文化があります。「サービス」という言葉を多くの場合「無料」という意味で使うことが、それを如実に物語っています。塾の経営者も電話一本で販社が教材見本を持ってくることを当然と考えています。ましてや塾は「教育」を提供するサービス業です。消費者側も供給側も、どこかで「子供を金儲けの手段にするなんて…」という後ろめたさを抱えてきました。結果、価格(授業料)は下方に押さえ込まれ続けるという現状を作っています。

以前もお話したことがあるのですが、価格には4つの価格帯が存在しています。

  1. 高すぎて誰もが怒りを覚える価格

  2. 「高い」でも「ほしい」と思わせる価格

  3. 「安い」買わなければ「損だ」と思わせる価格

  4. 安すぎて誰もが不安を覚える価格

このうち、②をプレミア価格と言い、最も売上が多くなる価格です。それに対して③をバリュー価格と言い、最も客数が多くなる価格です。この②と③の間に価格を設定したとき、商品は売れるという理屈です。ですから、本来、目的によって価格を決定する(変動させる)価格戦略は欠かせないのです。売上を確保したい主力商品ならプレミア価格に、客数を増やしたいフロント商品ならバリュー価格に設定するわけです。

ところが、ほとんどの塾がそうした戦略を考えていないので全ての商品が限りなくバリュー価格に近づいてしまっています。そのため、労働生産性が低いままという結果を招いています。

多くの塾人は…経営者も職員も…本当に一所懸命に働いています。しかし、週休二日、週40時間労働、有給休暇完全消化の塾は日本中に存在するのでしょうか。限りなく0に近いと思います。あなたの塾はいかがですか?

もともと塾業界を志望してくる若者は、目的意識やボランティア精神が高く長時間労働を厭(いと)わない性格の人が多いものです。しかし、それが後々のトラブルの原因になるとしたら皮肉としか言いようがありません。

私は「資本の論理から感情の論理へ」という主張をしています。「より良いものをより安く」から「どこにもないものをより高く」への変化です。それぞれの主力商品をバリュー価格からプレミア価格へ引き上げる努力(工夫)が必要とされています。それ以外に業界の労働生産性を高め、労働基準が守られる労働環境を作る方法はないと考えています。(現在の労働基準が適正かという議論はあると思いますが…。)

そして、忘れてはならない環境整備として、塾業界のステータス(地位)の向上を図る業界全体の努力が不可欠です。どこかのノーベル賞を受賞した学者に「塾不要論」を言わせたままにしていてはいけません。塾の存在価値を知らしめ、認知させ、市場から支持される業界にしていくことです。また、そうした魅力ある業界でなければ、優秀な若者が飛び込んでくることもなくなってしまうでしょう。

既報のようにベネッセが塾業界に進出してきました。今後も、異業種からの参入があるかもしれません。それは、これまでの塾人とは異質の文化を持った外来種のようなものです。日本中で「文化の衝突」が生じることでしょう。

塾業界は間違いなく転換点を迎えています。業界の浮沈は、この「速報」をお読みの「あなた」に掛かっています。

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