この記事は塾生獲得実践会の森智勝氏のご厚意により、全国学習塾援護会のHPから転載したものです。
団塊の世代と言われている人たちが子供の頃、人は社会との関わりを「労働」から始めました。誰もが親のお手伝いとして食事の用意、片づけをし、庭の草をむしり、おつかいに行ったものです。そして、「お母ちゃんが喜んでくれる」「お父さんから褒められる」といった経験を通して労働の喜び、尊さを自然と学びました。時には、お駄賃として「お小遣い」をもらい、労働の対価として「お金」が得られることも学びました。
ところが、日本が豊かになると、子供たちは物心ついた頃から「お金」を所有するようになります。気付けば自分名義の通帳が存在し、労働に従事しなくても月に○○円という「お小遣い」をもらうことが当然の権利のようになっています。すると、社会との関わりは「消費」という行為から始めることになります。言い換えると、昔の子どもは「ボランティア」から経験し、今の子供たちは(と、言っても現在40代の大人もですが)「ビジネス」から経験しているのです。
ビジネス行為(モノの売買)は、当事者の合意による等値交換です。等値交換ですから、消費者が総理大臣だろうが3歳の子供だろうが…120円さえ払えば向こうから缶コーヒーがやってきます。こうした経済活動から学ぶことは言うまでもなく「費用対効果」です。もし、買った缶コーヒーを不味(まず)いと思えば、二度と同じ商品を買うことはありません。誰もが取引を停止させるはずです。それは総理大臣も3歳の子供も変わりがありません。
こうした状況が教育現場でも蔓延しています。教育を施す・受ける行為が経済活動として認識されているのです。子供たちは1時間の授業を静かに(真面目に?)受けることに、大きな「苦痛」を感じています。つまり、対価として「苦痛」を支払っていると考えているのです。その「苦痛」に見合った商品が学校から、教師から提供されなかった場合、当然、子供たちは取引を停止してしまいます…それが学級崩壊です。(詳しくは内田樹氏著「下流志向」をお読みください。)
昔の子どもはボランティアから学びますから、苦痛を支払うことに疑問を持ちません。それが当たり前の行為として捉えられています。親も同様の思考で子供を学校に通わせていました。そうした社会全体に共通した認識の中で「教師の権威」は成立していたのです。しかし、現在では子供はもちろん、親もビジネスから学んだ世代です。当然、学校や教師に対する要求もエスカレートしていきます。モンスターペアレント、モンスターチルドレンの登場は必然の現象と言えるのです。
さて、塾は文字通りビジネスの現場です。費用対効果が低いと判断されれば、瞬時に見捨てられます。取引を停止されてしまいます。顧客から差し出されるお金(授業料)に見合う…いえ、上回る価値(商品)を継続的に提供する必要があります。これが小売業ならば簡単です。商品とお金は等値交換ですから、それ以外の部分を工夫すればすぐに対価(お金)を上回ることができます。コンビニは24時間、いつでも利用できるという付加価値によって圧倒的な支持を得、町の「お菓子屋さん」を凌駕(りょうが)してしまいました。ところが塾は、商品をお渡ししない究極のサービス業です。その上、他のサービス業のほとんどが「ウォンツ」によって成立しているのに対し、塾は基本的に「ニーズ」で成り立つビジネスです。さらに…その利用価値は同じニーズで成り立つ医者や弁護士のように、はっきりと目に見えるものではありません。医者ならば「病気が治る」というゴールを迎えることで円満に取引を終了させることができ、そのことで客も費用対効果に一定の満足と理解を得ます。塾は、時として取引終了時に「不合格」という不幸を迎えることも起こり得ます。
こうして考えていくと、いかに塾経営が特殊なビジネスかが分かります。
しかし、だからこそ塾経営というビジネスの面白さ、醍醐味があるのでしょう。塾人、特に情熱に燃える若い講師の中には「自分は子供が好き、教えることが好きでこの仕事を選んだ」という人がいます。その「思い」は尊いのですが、もし、それだけが理由ならば、近くの集会場を借りて無料で学習指導を提供すべきです。実際に、教師を退任した人がボランティアで勉強を教えている例は少なくありません。その行為が崇高であることを充分承知した上で言うのですが、無料で(ボランティアで)提供している「学習環境」と月に3万円を徴収して(ビジネスで)提供している「学習環境」と、どちらが子供たちの役に立っているか…それは圧倒的に後者です。我々塾人が成し得る社会貢献の王道はそこにあります。
この時期、春に入社した新人社員の中には「理想」と「現実」のギャップに悩んでいる人が多いものです。退職を考えている人もいることでしょう。しかし、せっかく理想と情熱を持って塾業界に飛び込んできた若者が躓(つまづ)き、リタイアするのは会社にとっても業界にとっても大いなる損失です。ぜひ、経営者の方には「社会の仕組み」を説き、現在の仕事の意義を伝えてほしいものです。ここでも「理論武装」は重要な役割を担っています。
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