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  • 執筆者の写真森智勝

中小塾のためのマーケティング講座(19)「総復習」

この記事は塾生獲得実践会の森智勝氏のご厚意により、全国学習塾援護会のHPから転載したものです。


(1)ステップアップ塾生獲得法


塾生獲得までの階段を作る

この時期は来春に向けた戦略を練り始める時期です。忘れていることも多いと思います。ここでマーケティングの総復習をしたいと思います。

私が提唱しているマーケティング法は「ダイレクト・レスポンス・マーケティング」です。簡単に言うと、こちらから営業に出るのではなく、客の方から手を挙げてもらうことを目的とします。


市場が売り手市場から買い手市場へと転換した現在、消費者は容易には「衝動買い」をしなくなりました。そうした消費者に対して必要なことは商品の魅力を的確に伝えることと明確な選択基準を提供することです。そのための手法として神田氏が命名したエモーショナルマーケティングの手法を取り入れます。

最近のセミナーテーマで言うと「授業を売るな、感動を売れ!」ということです。


ビジネスが拡大していく順序は全ての業種で同じです。


1見込み客を集める

     ↓

2見込み客を顧客にする

     ↓

3顧客のリピートを促す

     ↓

4紹介を得る


以前も紹介しましたが、これ以外にはありません。そのステージ(場面)ごとに「如何にして相手から手を挙げてもらうか」を考えます。次に塾における入塾までの流れを細分化すると次のようになります。


1チラシ・DMで興味を持ってもらう

     ↓

2問い合わせの電話を掛けてもらう

     ↓

3来塾してもらう(面談)

     ↓

4体験学習

     ↓

5入塾


例えば、見込み客を集める手段としてはチラシやDMがありますが、その時「消費者に手を挙げてもらう」ことは「入塾してもらう」ことではありません。数円のチラシで即、入塾してもらおうと考えることはハードルが高すぎるのです。この場合の「手を挙げる」は「問い合わせの電話をしてもらう」ことです。人は「意欲があるから行動する」のではありません。「行動することで意欲を自家発電する」のです。ですから、相手に求めることは「大きな一歩」ではなく、誰でも出来る「小さな一歩」でなければなりません。小さな一歩を踏み出した人は容易に次の一歩に向かいます。こうして入塾までのプロセスを細分化することを「ステップアップ獲得法」と名付けます。


「相手から手を挙げてもらう」は、けっしてプラスの場面だけではありません。マイナスの場面でも「相手から手を挙げてもらう」ことが必要です。上記の4から5の段階へ進んでもらうことをクロージングと言います。多くの塾がこの時点で電話を掛けたり、手紙を出したりして「入塾のお誘い」をします。するとどうなるか。「客はその時点で再び迷ってしまう」という現象を起こします。あえて「入りますか、辞めますか」と聞かれると、急に不安になるのです。あなたも、例えば妙に気に入った絵を見つけ、買おうとした瞬間に店員から「どうなさいます?買いますか、辞めますか?」と尋ねられたら一瞬躊躇しませんか?不思議なもので人の思考はそうなっています。

「どうなさいますか?」と聞かれると「もう少し子供と相談してみます。決まりましたらこちらからお電話します。」となりかねないのです。たいていの場合、2度と電話は掛かってきません。

ではどうするか?面談のときに一言言えばよいのです。

「席はそのまま確保しますので、入塾をキャンセルされる場合は1本お電話を入れてください。複雑な手続きはいりません。電話一本掛けていただくだけで結構です。」

つまり、入塾キャンセルというマイナスの場面でも「相手に手を挙げてもらう」のです。この手法はアップセールスにも使えます。個別指導や自立指導の塾は、たいていの場合、通塾回数で授業料が違います。そして、年度途中で回数を増やすように勧めるのは至難の業です。ですから体験前にアップセールスをしてしまいます。「テストも近いし、どうせ体験中は無料ですから英語と数学だけでなく、苦手な理科も受けられてはどうですか?もし、ご本人さんに通塾の負担が大きいようでしたら入塾の際に減らしていただければよろしいですから。」こうしてアップセールスをした後、全力で理科のテスト対策をして効果を実感させることができれば、そのままの時間割で入塾する可能性は大きくなります。「体験中は無料」ということで、勧める側も気楽にプッシュできます。

どうすれば「相手から手を挙げてもらえるか」を常に考えてください。すると、チラシの作り方も大きく変わるはずです。無批判に「塾生募集」と大きく書くことが、いかに無意味かが分かるはずです。


人は言葉でのみ意志を伝達できる

その時、有効なのがエモーショナルマーケティング、私が言うところの「言霊コピーライティング」です。仰々しいネーミングですが、言っていることは「顧客本位」という有り触れたことです。細かいことで言えば、チラシの目的が電話を掛けてもらうことだとすれば、どうすれば母親が電話を掛けやすくなるかという工夫をすることです。小さな一歩とは言え、塾に電話を掛けるということは結構勇気がいるものです。それを後押しする工夫が必要です。

  1. 電話番号は塾名と同じくらい大きくする。

  2. 必ず受付時間を表示する。

  3. 担当者(責任者)名を明記する。


こうした些細な工夫は母親の心の留め金を外すために必要なのです。また、受付方法も多ければ多いほど有効です。最近は働く母親が主流です。FAXやメール等の通信手段を利用して24時間受付可能な仕組みを作ってください。夜中にチラシを見る人も増えているのです。文章力を磨くことは必須です。人は言葉でのみ意思の伝達が可能です。自塾の素晴らしさを早く正確に伝えるスキルを身に付けることは本当に重要です。そして、それは「感動」を伴ったものでなければなりません。言霊コピーライティングはそうした観点から生まれたものです。決して口先のテクニックで人を催眠にかけることではありません。言霊コピーライティングの基本は次の通りです。


  • 相手の思いを代弁してあげる(例)「4月になったらがんばる」は本当ですか?

  • 技術よりも理念・熱意を伝える

  • ネーミングを工夫する(例)自立学習 → 「フリー・ラーニング・システム」

  • 物語にして伝える

  • 否定文で(否定的に)伝える(例)シェーン戻ってきて! → シェーン行かないで!

  • 抽象的な表現は避ける


「お客の立場に立って考える」と言いますが、なぜお客の立場に立って考えるのかという根本を見失うと、ただ客に迎合するだけの「米搗(つ)きバッタ」になってしまいます。私の主張する「殿様バッタ」とは客と友達になることです。友人の息子なら「おいおい、本当にウチの塾でいいのかよ」「この子だったら個別よりも集団塾のほうが合っているんじゃないか」と考えるはずです。その上で「分かった。それならオレに任せておけ」という関係、それが理想です。そのために絶対必要なものがセグメント、顧客の絞込みです。



(2)ステップアップ思考法の勧め


セグメントは謙虚さの表れ

セグメント、絞込みの重要性から説明します。

セグメントの必要性については多くのマニュアル本で主張されていますが、肝心なことは「私の塾はこんな子供に最適です」という明確な主張があるかどうかです。

「どんな子供にも最適です」と言っている塾は、外から見ると「どんな塾か」が分かりません。人は分からないところへは近づかないという習性を持っています。

よく使う言葉ですが「誰にも嫌われたくないと思っていると、誰からも好かれない」…これは真実です。自塾の「得意分野」を主張することは、消費者に対して「選択基準」を明確にすることです。

「この分野は専門ではありません。しかし、この点には自信があります。どうぞ私に任せてください。」という主張が相手の信頼を勝ち得るのです。チラシの表現で「一緒に頑張ってみませんか?」とか「ぜひ一度体験してみませんか?」という奥床しい?お誘いの表現を見かけることがありますが、逆効果です。この表現からは「自信のなさ」を感じてしまうのです。

「客は塾が選ぶ」聞くと高飛車な印象を受ける言葉です。以前、セミナーでこの話をしたときに「ウチは子供を選ばない。どんな子供でも来てくれたら理想の生徒に変えるよう努力するのが塾の仕事だ。」と反論されたことがあります。その考え方自体は素晴らしいのですが、視点を変えてみれば「全ての子供はオレの力で変えられる。ウチの塾はどんな子供にも最高の塾だ」という傲慢さと紙一重です。

「客を選ぶ」ということは、実は「客には自信のある商品だけを売る」という謙虚さと同意語です。京都の「一見さんお断り」も、現在では店の傲慢さの代名詞のように言われますが、本来は謙虚さの表れだったのです。内陸という土地柄、いつでも新鮮な素材を用意できるわけではないという事情から「期待して来られた初めてのお客さんを裏切ることはできない」という発想が生まれ、「一見さんお断り」が始まったのです。

2割の人にセグメントする。そうした発想を持ってください。2割の保護者に(生徒に)「ここは我が子の(自分の)ための塾だ」と思ってもらうことです。すると「私の塾が2割の人にとって最も相応しい塾になるためには何が必要か」と自動的に考えるようになります。自塾の暗黙知を作り、育てることの必要性に気付きます。


仕組み作りもステップアップ法で

次に大切なことは「仕組み作り」です。

全ての進歩は次の流れで決まります。


1 願望・目標を立てる(ビジネス・モデル)

     ↓

2 戦略を練る

     ↓

3 戦術を考える

     ↓

4 実行する

     ↓

5 結果が出る

     ↓

6 検証する

     ↓

7 データベース化する


チラシの目標(目的)は問い合わせの電話をもらうことでした。その場合、必ず必要なことは数値目標にすることです。

「一本でも多くの電話をもらおう」ではダメです。「4月30日までに100本の電話を掛けてもらおう」と具体的に設定するのです。

そうして初めて、100本の問い合わせをしてもらうためには「どんなチラシ」を「どの範囲」に「何回」折り込めばいいかという戦略を練ることが出来るのです。


次は「戦術」です。キャッチコピーをどうするかとか、色は、構成は…等はここに入ることになります。そして実際に折り込んで結果が出れば、検証を加えてデータベース化していく。これを繰り返すことで塾全体の進歩があるのです。

当然、100本の問い合わせ電話にも「目標」が必要です。次は「掛かってきた問い合わせ電話の70パーセントを来塾に結びつけよう」という目標が設定されます。そして、そのための「電話対応」の戦略・戦術・実行・結果・検証が必要になります。

来塾面談についても目標・戦略…が欠かせないことは言うまでもありません。

要は、出来る限り「細分化」することです。

大きなテーマで、例えば「塾生を増やすためには」と考えても答えは出てきません。「世界平和のためには」と考えるのと一緒です。ましてや、社員スタッフに「塾生を増やすアイディアを考えろ」と命じてもアイディアが出てくるはずもありません。

紹介した「ステップアップ法」は仕組み作りにも当てはまります。問題点を出来る限り細分化して答えを見つけていく。その積み重ねが全体の「仕組み作り」に他ならないのです。

大きな目標を立てることは大切なことです。しかし、ほこりをかぶった「経営計画書」になっては困ります。細分化するということは、一つ一つ「実行」のハードルを低くすることです。「行動によって意欲が湧く」原則はあなたにも当てはまります。

最初の一歩です。必要なことは。

どこまで細分化すれば、あなたが容易に最初の一歩を踏み出せるか。そうした観点から仕組み作りを考えてください。

ちなみに私の最初の一歩はコンビニで「ありがとう」を言うことでした。仕事柄、私は移動が多く(空を飛べないという事情もあり)新幹線を使います。体が資本のため、また車中で仕事をするためにグリーン車を利用します。すると客室乗務員の女性が「お絞り」を持ってきてくれるのですが、「ありがとう」と言って受け取る人を見掛けたことがありません。そうした経験を重ねていくと、自分に対する妙な自信が湧いてきます。

「こいつら『ありがとう』も言えんのか。俺は言えてる。俺って結構いい奴じゃん。」(あくまで心の中の声です。言葉遣いがヒドイですがお許しを。)

そんな自分に対する自信が湧いてくるのです。今年のセミナーで「コンビニでありがとうを言おう」とお勧めしているのですが、セミナー後、最も反響が大きいのがコレです。コミュニケーション戦略を構築するための「最初の一歩」がココにあります。これならば誰でも実行可能です、その気になれば。絶対のお勧めです。人生が変わりますよ。


思考法を変えて飛躍の年に

 駆け足で説明してきましたが、来年度の戦略を練る前に考えてください。

あなたの塾は『仕組み』で動いていますか?その場の「思いつき」(コレはコレで非常に重要なのですが…)だけで動いていませんか?

これまでの基本原則をまとめます。


(1)人は行動することで意欲を高める

(2)人は「形」に化学反応を起こす

(3)セグメント(絞込み)を徹底する

(4)言霊コピーライティング(顧客本位)で書く。

(5)問題を細分化して考える(step up思考法)

(6)客と友人になる(殿様バッタ)

(7)仕組み作りを意識する

(8)ダイレクト・レスポンス・マーケティング


思考法を変えれば見えなかったものが見えてきます。人は人を変えることは出来ませんが、変わることは一瞬です。そして「あなたが変わった」ことが生徒や保護者を通じて地域に伝播するのに約3ヶ月。

3ヶ月で塾は変わります。どうぞ、最初の一歩を踏み出してください。

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