この記事は塾生獲得実践会の森智勝氏のご厚意により、全国学習塾援護会のHPから転載したものです。
多くの保護者が、保護者会や説明会に出席した後に疲れた表情で帰宅の途につきます。これでは、せっかくの会が逆効果になってしまいます。本来、わざわざ休日に教室まで足を運んでくれる保護者は塾の味方であり、優良客です。その優良顧客に対して塾への信頼を強めていただき、評判を拡げ、友人紹介を促すのが保護者会の目的です。そのためには、会が終了した後、保護者がそれまで以上の期待感と信頼感を持ち、明るい表情で帰って行くようにしなければなりません。なぜ、多くの塾がそうならないのでしょう。原因は、塾側の話が伝えたいことに終始し、保護者が聞きたいこと、知りたいことを話していないからです。
「次年度のカリキュラム変更について」「時間割・教材について」「今年度の進学実績の途中経過」…もちろん、必要な情報は伝えなければいけませんが、正直、保護者にとっては興味のない話です。そうした話だけに1時間も2時間も費やしていれば、保護者が疲れるのも無理はありません。興味のない話を真面目なフリをして聞いているのが辛いのは、子供も大人も変わりません。そこに、保護者が聞きたい話を加えて下さい。
では、保護者はどんな話を聞きたいと思っているのでしょう。
落語の修業を始めたばかりの噺家さんがいます。師匠の家に住み込みを始め、やっと2ヶ月が経ちました。初めて稽古をつけてもらい、短い話を必死の思いで覚えますが上手くいきません。師匠の家の雑用と稽古で忙殺され、手術のために入院している父親を見舞いに訪れたのは、手術後ようやく2週間が過ぎた頃でした。
「ごめんね、来るのが遅くなって。今日もスグ戻らなければならないんだ」と言う息子に、父親が言います。「もう噺の稽古をしているのか?少し聞かせてくれ。」まだ、うろ覚えで人に聴かせられるものではないと渋る息子に、父親が言ったセリフがコレです。
「お前は寿限無を一日で覚えた子だ。まだ、才能が眠っているだけだ。自信を持て。」
自信喪失しかけている息子にとって、どれだけの励ましになったことでしょう。この一言が彼が最も聞きたかった言葉だったはずです。また、これは父親が最も聞きたいセリフでもあったことでしょう。師匠から「ご安心下さい。あなたの息子さんには才能があります」と言ってほしいに決まっています。
例えば個別面談でも、模擬試験の帳票を見せながら、「アレがダメ、コレがダメ」とダメ出しを続け、あげくの果てには「ご家庭でも指導をお願いします」と責任転嫁している指導者がいます。もともと、家庭では無理だから塾に通わせているのです。こんな面談をしている塾に信頼を寄せる保護者はいないでしょう。また、ダメ出しを100回言えば子供がやる気になるのでしたらいいのですが、そんなことはあり得ません。意気消沈し、ますますモチベーションを下げるだけです。
親は、我が子の可能性を信じたいのです。この塾に通い続ければ、いつか才能が開花すると信じたいのです。才能や素質の量が額に書かれて人は産まれてきません。親にも本人にも…誰にも分からないことです。ならば、指導者である「あなた」がそれを信じてあげることです。親御さんに対して、「ご安心下さい。あなたの息子さんには才能があります」と言ってあげるべきです。
人が生きていく上で絶対に必要なものは「希望」だと言われています。その希望を「あなた」が与えてあげるのです。それを感じられる説明会、保護者会。面談を実施して下さい。保護者が、生徒が、明日からも頑張ろうと意欲を向上させて帰っていけるように…。
私は仕事柄、保護者向けの講演をすることがあります。とある塾でのことです。保護者会終了後、塾のスタッフが言いました。「お母さん方が、あんなに活き活きとした表情で帰って行く保護者会は初めてです」と。ぜひ、あなたの力で全ての保護者を活き活きとした表情で帰してください。
ちょっと耳の痛い話をします。最近、「当たり前のことを当たり前に徹底すること」の重要性を強調しています。これは、知り合いの企業経営者から言われたことです。彼はこういいました。「塾業界は楽だなあ。当たり前のことを当たり前にしていれば、それで差別化ができる。」
彼が娘の塾の保護者会に出席した時のことです。塾のスタッフが机を出して受付をしています。参加者の名前を聞いて出席表に○を付けているのですが、その受付係が椅子に座ったまま対応していたというのです。当然、参加する側の保護者は立ったままです。
客と目線の高さを合わせるというのは、ビジネスにおいて常識です。椅子に座ったまま対応するホテルのフロントマンはいません。私も多くの塾を訪問しますが、私の姿を見つけると、すっと立ち上がって挨拶してくれるのは気持ちがいいものです。ところが、中には「自分には関係ない客が来た」とばかりに、座ったまま作業を続ける塾もあります。もし、私が塾を探している保護者ならば、どちらの塾を選択するか明らかです。
私は昔から、フレンドシップ・マーケティングを推奨していますが、フレンドシップとは礼を欠くことではありません。「親しき仲にも礼儀あり」と言うではないですか。もともと塾は、本来、顧客に送るべき御歳暮や御中元を顧客からいただく、不思議な業態です。どうしても勘違いをしやすくなります。「先生!」と呼ばれることは、「運転手さん!」と呼ばれるのと同意と考えるべきです。ぜひ、当たり前のビジネスマナーを全てのスタッフに習得させてください。
ちなみに、前述の「噺家さんの話」は、息子が買ってきた雑誌に載っていた漫画のひとコマです。アンテナを張っていると、学ぶことはどこにもあるものです。