この記事は塾生獲得実践会の森智勝氏のご厚意により、全国学習塾援護会のHPから転載したものです。
明けましておめでとうございます。この紙上セミナーを始めて5度目の正月を迎えることができました。皆様のご支持のお陰と感謝申し上げます。
私が言うまでもなく、塾業界は激動期を迎えています。一昨年から目立つようになったM&Aや大手塾の全国展開がその象徴です。しかし、全体を俯瞰してみると他業種に見られる状況が塾業界にも訪れているに過ぎません。パレートの法則(私が言う「2対8の法則社会」)によって、上位2割へ参入する競争が激化しているのです。気付けば、町から八百屋、魚屋が姿を消し、イオンに代表される郊外型の大規模スーパーに取って代わられました。お菓子屋はコンビニに、喫茶店は外資系(ドトール、スターバックス等)に駆逐されようとしています。言葉にするのは申し訳ない気もするのですが、あまり経営というものに関心がなく、その日暮らし?の運営をしていた店が姿を消しているというのは厳然たる事実です。
本誌「私塾界」の報告によると、5年前に存続していた塾(教室)のうち36パーセントが移転・廃業しているということです。その多くは中小・個人塾と思われます。ところが、それと同程度の数の教室が開校し、トータルでは若干増えています。この増加した分の多くは大手塾の分校とFCでしょう。この状況から考えられることは、大資本の塾が大半を占める市場になりつつあるということです。ベネッセ、学研の塾市場への進出、大手塾の合従連衡という近年の動きがそれを加速しています。中小・個人塾にとっては受難の時代が続くことでしょう。姿を消した八百屋や魚屋と同じ経営思想の塾が淘汰されていくのは必然です。しかし一方で、規模は小さくとも熱狂的なファンを持つ喫茶店やラーメン店が存在しているように、中小・個人塾が勝ち残る方法はあるはずです。
こうした状況下で必要なことは、「投資」を実行できるかどうかです。特に設備投資を大胆に行なうことが求められています。いくら中身で勝負と言っても、圧倒的な規模の建物、美麗な教室、充実した設備という「器」の前では如何(いかん)ともし難いものです。PS・コンサルティング・システムの小林氏が主張しているように、これからの塾業界を勝ち抜くには「圧倒的な量」と「圧倒的な質」が必要です。大手塾が「量」を求めるのなら、中小塾は「質」へのこだわりを追求すべきでしょう。どちらにせよ、それを実現するためには「圧倒的な投資」が不可欠です。私は今年のうちに「向こう5年分の設備投資」を主張しています。2008年が業界にとって大きな分岐点になると考えているからです。
言うまでもなく、投資と経費は別物です。ところが、多くの経営者が同様視しています。経費の削減は重要ですが、投資を圧縮することはおススメできません。以前もセミナーでお話したことですが、ビジネスとは投資とリターンの繰り返しで成立しています。問題はどこに投資をすればより大きなリターンが得られるかという見極めです。経営者の決断が迫られています。
設備投資と並んで必要なことは、人材に対する投資です。
究極のアナログビジネスである塾にとって、ある意味「人」が全てと言っても過言ではありません。ここ数年の景気回復と2007年問題(団塊の世代の大量リタイア)が重なり、大企業を中心に新卒採用はバブル期を上回る勢いです。それに反比例して塾業界は採用難に陥っています。だからこそ「優秀な人材」の獲得が一歩抜け出す「てこ」になるのです。来年度(現大学3年生)の獲得競争は既に始まっています。乗り遅れることがありませんように。
人材の獲得と並んで、いや、それ以上に重要なことは人材の育成です。ほとんどの塾は新人教育にはそれなりの教育システムを設けるようになりました。しかし、以後の育成システムに関しては脆弱な塾が多い。人は自らの成長に役立つ場所に魅力を感じるものです。もちろん、日々の業務そのものが成長の糧であるという理屈は重々承知していますが、それだけでは(日々の変わらぬルーティーンだけでは)誰もが自分の生き方に、ふと疑問を持ってしまいます。定期的、計画的な研修制度を設けることは職員のモチベーションアップと定着率に貢献すると同時に、優秀な人材の揃った企業は他者に対して大きなアドバンテージになります。人への投資は即効性という意味では劣りますが、典型的な労働集約型の教育ビジネスでは不可避の課題です。
そして、もっとも投資をしなければならない人物は、言うまでもなく経営者本人です。社員教育には熱心な経営者は多いのですが、自己啓発に熱心な経営者は少ない。しかし、企業の業績は経営者の「器」の大きさで決まるというのは定説です。まず、自らが自らの成長のために投資する姿勢を見せなければなりません。好調な塾(企業)の経営者は例外なく勉強熱心です。
業界にとっては混迷の時代が続くのでしょうが、日本社会全体の教育水準向上のためには良い傾向と言えるでしょう。それぞれの塾が存続を賭けて戦うことで、結果としてより良い学習環境を市場に提供できるとすれば、今、問題になっている学力低下の歯止めに寄与することになります。いえ、塾業界がリードしていく姿勢こそが必要ではないでしょうか。
これまでの塾は「経営」に熱心でなくとも存続できていた感が否めません。もしかすると、他業種から見れば「なまぬるい世界」に見えているのかもしれません。塾がビジネスとして社会貢献をする存在である以上、経営力の向上は必須です。経営者たる「あなた」の覚悟と決断が求められています。
2008年、「あなた」の活躍に大いに期待しています。
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